ニャンコの作文

□deception;
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寝ぼけた様にシーツの上を白い指先がさ迷う。
けれど期待した感触は見つからず、するりと抜ける自分の腕にファイの脳に?マークが浮かんだ。
在るはずの人が居ない…。

「――…くろ、さま?」

ぼんやりとした寝ぼけ眼で辺りを見渡してみるけれど、やっぱりその姿は何処にも見えない。

居ないんだ――…唇が小さく動き、シーツをさまよっていた指先が乱れた髪を軽く梳く。

…別にいつも一緒に寝てる訳じゃないし。
昨夜はほとんど無理やり自分が彼のベッドに入り込んだようなものだから…目が覚めた所に彼が居なくたってどうって事ないのだけど。
そう、どうって事ないのだけど…。

(なんか寒い…)

どうって事ないはずなのに、今日の自分は何故か…寒いと感じていた。
寂しい、と感じている。
『人恋しい』とでも言うべきなのだろうか。

誰かの体温が恋しい。
誰かの声が聞きたい。


「…小狼君達も居ないのかな…」


部屋の外からも下からも何の音もしない。
窓に目をやると、空はもう明るく、カタカタと震えるガラスから今日は風が強いらしい事が見て取れる。
そんなに長く寝ていたつもりは無かったのだけど、と少し笑った。

「買い物。行こっかなー…」

確か店の食材が少なくなって来ていた気がする。
今日はサクラ姫の体調も考えて店は休みにしてあるけれど、明日からは通常営業の予定だ。
食材がなければ開店出来ない。



上着を掴んで外へ出ると少し肌寒い風が髪を揺らした。
ところで、あの4人(むしろ3人と1匹?)は何処へ行ったのだろう。

とりあえず、帰ってくる前にご飯くらい作っておこうか。
そう考えて、ファイはてくてくと軽い足取りで市場へと歩いていった。



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