ニャンコの作文

□のみくらべ
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強く香るアルコールの匂いに、男は不機嫌そうに眉根を寄せた。

がやがやざわざわ、そこらじゅうで煙草の煙が漂い、取り留めない会話が繰り返され、酒が飲み交わされている。
活気があるといえば聞こえはいいけれど、正直『馬鹿らしい』というのが男の素直な感想だ。

酒は静かに飲むもんだ、などと見た目の割に渋い酒の飲み方を好むこの男は、何もかも忘れて楽しそうにグラスを傾ける客達を眺めて軽く息を吐いた。

「…こんな所に居んのかよ」

男はとても精悍な顔付きをしている。
男性らしい日に焼けた肌と逞しい体はその全てが彼の強さを物語っているかのようだ。
その紅い瞳はまるで獲物を狩る狼の如く鋭く、睨み付けられれば大抵の人間ならば軽く怖じ気付くくらいに。

「…あの野郎…何処に」

苦々しく呟いて、男は平均に比べても結構高い身長で店内をぐるりと見渡しやっと目的の人物を見つけた。

「……」

適度に落とされた照明の中でぼんやり光る薄い金髪。
普通にしていたら多少見つけ辛いかもしれないが、今回は簡単に見つけることが出来た。

こちらに向かってしなやかな手を降る男。
黒鋼にとっての旅の同行者。
どこまで行っても心の内を見せようとしない得体の知れない魔術師。

「やほー、く〜ろた〜んVv」

店の奥にある広いソファーの真ん中で、恐らくは店の者だろう女や客達に囲まれてへにゃへにゃと笑う碧眼の男は黒鋼が彼を見つける前から既に黒鋼を見つけていたようだった。

それこそ、黒鋼がこの店に足を踏み入れたその時に。


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