ニャンコの作文

□ある夜のコト
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「好き、大好きー」

穏やかな声。

「黒たんが好き」

海のように深く透明な瞳で歌うように愛の言葉を囁く魔術師。

「愛してる」

ゴロゴロと猫のように喉を鳴らして、黒衣の忍にしがみついた魔術師は幸せそうに楽しそうに笑っている。


「………………」


あぐらをかいた足に乗られ、首筋にしなやかな細い腕を回され、耳元で囁かれる甘い声に黒鋼は眉間に苦々しく皺を寄せた。
一度だけわざとらしい大きなため息をつくと、魔術師は蒼い目を丸くさせて数回まばたきをしてへにゃり、と表情を崩した。

「ため息なんて似合わないー」
「うるせぇ。嫌味だ、汲み取れ」
「え〜」

やっぱり似合わなーい、と魔術師は堪えきれない声を洩らしながらおかしそうにくすくす笑っている。
けれどその指先は煽るように黒鋼の首筋を撫で、すらりと伸びた白い足は動く度に黒鋼の目を奪う。

ああ、憎らしい。
相変わらずの笑顔を浮かべて自分を観察している魔術師を見下ろしながら、黒鋼は意地でもこの誘いには乗るものかと決意した。

『異世界を渡る』などというとんでもない旅の間にも思っていたが、この魔術師は自分の魅力というのをよく知っている。
黒鋼が魔術師のどのような仕草や表情に目を奪われるのかも。

わかっていて
知っていて

その上での誘惑はタチが悪い。


「ね…シたくならない?」


耳に息を吹き込むように囁かれたその艶やかな声に、黒鋼は一層眉間に寄せた皺を深くすると自分を見つめる魔術師を鋭く睨みつけた。


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