ニャンコの作文
□叶わない…
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この国の夜に漆黒の幄が落ちる事はない。
たくさんのネオンや、消えることのない明りがいつまでも光り続けている。
それは今日も同じことだ。
まぁ どうせ、今日でこの世界ともお別れなんだろうけど…――
…サクラちゃんの記憶の羽さえ手に入れば、この世界にとどまる理由はなくなるし…。
仕切り直しのパーティでたくさんの笑い声が響くこの部屋は、なかなか居心地が良かった。
たくさんの人が、楽しそうに笑っている。
人の本当の笑顔を見るのはそんなに悪い気はしないものだ。
けれどそこに彼の姿は無くて…不意に目線を巡らせた窓の外に見えた彼と幼い少女の姿に、オレは不思議な感覚を覚えた。
…黒髪の少女。
彼が唯一仕えるという日本国の姫君と、魂を同じくする少女。
誰かに呼ばれて横を通り過ぎていったしなやかな黒髪に、じわじわとした不思議な感覚が体中を走る。
そして、それは…彼の視線が確実にあの少女を追っていたとわかった瞬間…確かな痛みへと変わった。
(…ホントに…そっくりなんだね、知世ちゃん…)
けれど、オレは変わらずに笑える。
…痛みには慣れてるんだ。
肉体的にも、精神的にも。
この世界での家代わりであるトレーラーを出ると熱った頬を撫でる夜風が涼しい。
こちらへ向かって歩いて来た彼に新しい酒瓶を渡して、ふにゃりと微笑んだ。
「知代ちゃんと、何話してたのー?」
「別に…」
「"別に"、ねー」
「てめぇは何しに来たんだよ」
「別に――」
「…」
彼の問いにオレはにこーと柔らかく笑う。
いつものようにyesもnoもはっきりしないまま。
でも、オレには君が何をしてたかわかるよ?
"元の世界"を思っていたんだね。
わかるよ。
だってほら…瞳が優しい…。