犬タロの作文
□身長差
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しまった、とシンジは思った。
とりあえず辺りを見回してみるけれど、目的のものもそれの変わりになりそうなものも見当たらない。
放課後の図書館、人影はまばら。
明日提出の宿題にどうしても必要な本はシンジの目線の先にある。
(…あと少しなのに…)
恨みがましく見つめてみてもその差は縮まるものではないが、悔しい事に違いはない。
同年代に比べれば、多分平均値である背丈なのだが。
どんなに背伸びしてもあと少しの所で届かないのだ。
「…ったく、こんな時に限って居ないんだから…」
いつもいつも側にひっついて離れないくせに!
宿題なんか初めからやるつもりもないだろうに、図書館まで付いてきたある人物を思い浮かべてシンジは軽く舌打ちした。
(居たら土台に使ってやるのに…)
なかなか酷いことを考えているようである(だけど土台くらいなら喜んでやりそうだ)。
「…っ、もう…ちょっと…」
爪先立って腕をぐっと伸ばせば、指先は微かに触れる。
あともう少し。
もう少しで目的のものが手に入るのだ。
こういう場合、意地でも取ってやる!と思ってしまうのは彼だけではないだろう。
しかし、格闘する事十数分。
ようやく『無理』と言うのがわかったシンジは、大きくため息を付いて肩を揺らした。
「…くそー…」
本当にあともう少しだというのに。
とりあえず、最後にもう一回!!!
と、思いっきり背伸びをして手を伸ばした瞬間
「これ欲しいの?」
ひょい
「はい、どぞ」
「……」