犬タロの作文
□vanilla ice or kiss?
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「はい、シンジ君。あーん」
語尾にハートマークでも付いていそうな程に甘い口調で言った彼は、美しいその顔に満面の笑みを浮かべてスプーンをシンジの口許に差し出した。
銀色に輝くスプーンの上には、とろりと少し溶けたアイスクリーム。
しかし
当のシンジは、それとそれを差し出す彼を見つめて一気に固まった。
「…か、カヲルくん?」
「なんだい?」
空気に染み渡るように穏やかなその声はただ優しくシンジの耳に届く。
いつもならばその声にただぼんやりと聞き惚れてしまうシンジなのだが、今回ばかりはカヲルのその行動の真意が読み取れずに(いつもの事のような気もするが) 、困惑の色を全面的に浮かべた表情でカヲルを見つめた。
「これ、なに?」
「アイスクリームだよ。バニラなんだけど…嫌いかな?」
「そうじゃなくて…その…」
「さっき、日向さんがくれたんだ。けれど僕は甘い物は余り得意ではないし」
(いや、それを聞いてる訳じゃ…)
状況をまともに把握出来ずにぼんやりとスプーンに乗ったアイスクリームを凝視するシンジに、カヲルはふわりと微笑んでもう片方の手でシンジの唇をそっと撫でた。
驚いてぴくりと震えたシンジの唇が一瞬開いた所でスプーンを差し入れる。
「美味しいかい?」
「…////」
スプーンを食わえたままコクリと頷くとカヲルの紅い瞳が優しげに細められた。
(あ、あの、カヲル君…?)
ますます深まる疑問にシンジは心の中で訴える。
ここは、ネルフ本部の休憩所だよ?
みんなの憩いの場所なんだよ?
ちらほらと職員の皆さんがなけなしの休憩時間を謳歌してるんだよ?
そんな中で、ボク達明らかに浮いてるよ!?
さっきから視線が痛すぎる…ボク…泣きそうだよぅ………