犬タロの作文
□大好きだから
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それは、僕が初めて興味を持った他人。
『イカリシンジ』
初めて好きになったヒト。
初めて近付きたいと思ったヒト。
初めて…
好きになって欲しいと思った…――
「ふざけるな!!!!」
大きな叫び声と共に渇いた音が辺りに響き渡る。
道行く生徒達が視線が集まる中、ボロボロと腕から零れ落ちる色とりどりの包みが冷たい床に叩きつけられて2人の周りに散らばった。
「…ボクは君の事なんか好きじゃない。もう近寄るな!!」
声の主たる黒髪の少年の怒りを孕んだ視線は、ただ冷たく目の前で立ち竦む銀髪の少年を睨み付ける。
「…ッ」
黒髪の少年が張り上げた手のひらの感触が残る頬は微かに腫れて熱を持っていたけれど、銀髪の少年のついさっきまで期待に沸き立っていた心はまるで凍えてしまいそうな程に暗く沈んでいた。
不意に目の黒髪の少年の姿が歪んで銀髪の少年の胸の奥には何やら得体の知れないものが一気に込み上げる。
逸らした視線はもう黒髪の少年を見る事は出来なくて…。
次の瞬間、彼は一気に駆け出した。
「渚!!?」
驚いたような黒髪の少年の声が後ろから聞こえたけれど彼は振り返らなかった。
(…別に、逃げた訳じゃない)
言い訳のようにその言葉を何度も頭の中で繰り返す。
(絶対、逃げてなんかいない)
だってあんな言葉いつだって言われていたから。
『近寄るな』
『話掛けるな』
『あっち行けよ』
いつもいつも、そういつだって。
どんなに"スキ"と伝えても返ってくるのは冷たい言葉。
別にそれで良かった。
その後、"君ってホント馬鹿だよな"と言って呆れたように笑ってくれるその表情も大好きだったから。
だけど、
今日だけは聞きたくなかった。
あんな言葉聞きたくなかった。
普通に笑って欲しかった。
「…シンジくんの、ば―か…」
走って走って、辿り着いた誰も居ない公園で彼は呟いた。
不意に空を見上げると…まるで花びらのような雪が深々と降り始めていた。