犬タロの作文

□スキなトコ、キライなトコ
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好きなのは、その瞳。
好きなのは、その髪。
好きなのは、その声。

いつも怒ってばっかりだけど、そんなトコだって結構好き。

だけど、嫌いはトコも実はある。

あのヒトの嫌いなトコ。
どーしても嫌いなトコは………


僕を『スキ』って言わないその唇―――


「何でこんなに『スキ』って言ってるのに、スキになってくれないんだよ」
「………」

むーっと眉間に皺を寄せて顔を覗き込んでくる赤い瞳を完璧に無視して、シンジは手の中にある携帯のディスプレイをじっと見ていた。

「シンジ君聞いてんの?」
「………」
「いーかーりーくーん」

返事がないと理解したカヲルは、ふんっと不機嫌そうに鼻をならしベンチの背もたれにその体を預けた。

「…何で無視すんのさ」

ぽつり、と小さく呟いてカヲルは再び携帯に夢中になっているシンジの顔を覗き込む。

「僕は、こんなに。こんなにこんなにスキなのに…何でシンジ君はスキって言わないんだよ。ねぇ、何でー?」

ムキになって、今にも泣きそうな顔をして。
その姿がまるで小さな子供のようで…シンジはくすりと笑みを零すとパクンと携帯を閉じた。

「ね、子守歌…歌ってあげようか?」
「は?」
「聞きたくない?」

突然のシンジの提案に対して、子供扱いされているとあからさまに顔を歪めたカヲルだったが、珍しく柔らかな笑みを浮かべたシンジの機嫌を低下させたくはない。
一瞬の葛藤の後、やはり勝ったのはシンジの機嫌を優先する方だ(もちろん歌に興味もあるし)

「…聞きたい…」
「じゃ、歌ってやる」

ちゃんと聞いてろよ?、とやっぱり少し機嫌が良さそうなシンジの唇はすぅと一呼吸置くと、小さな歌声を紡ぎ始めた。

「………」

耳に届く聞いた事もないそのメロディー。
けれど、どこか懐かしい。

「どこの歌? それ」
「知らない。何となく覚えてるだけだし」
「ふーん」

優しい旋律。
綺麗な声。
もし、その声で『スキ』って言ってくれたなら…

(…すごくすごく嬉しい、のに)

「何してんの」
「ヒザマクラ」


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