犬タロの作文

□紅[クレナイ]の鎖
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傷つく事を知らない白い腕に 冷たい刃を滑らせてみただけ。
そうしたら、とても綺麗な赤が白を伝って滑り落ちて…


ああ、綺麗だなって…思っただけ。


特に理由なんか無かった。
ただ、テレビとかマンガとか…結構色んな所でその言葉を聞いたから
試してみたら何か変わるのかな?
そんなに沢山の人が惹かれるなら、いいものなのかな?
そんな事をぼんやり考えて…剃刀の刃だけを取り指先で撫でてみた。
すうっ…赤い線が走る。
チリチリとした小さな痛みが走る。

ちょっと変な感じがした。
痛いでもくすぐったいでもない変な感じ。

手首に当てると冷たい刃を伝わって、小さな生きてる証が伝わって来た。
このままこの証を切り裂いたら、どうなるかな?

そう思ったら、ほんの少しドキドキした。


まず、手首に少しだけ力を入れ赤い線を走らせてみる。
ぱっくり開いた傷口から トロトロと流れる赤が綺麗で、思わず指先で撫でた。
でも、そしたらせっかく綺麗な玉になっていた赤が潰れてしまって…やらなきゃ良かったって後悔した。


…赤色が好きになったのは、多分この頃からだ。
白を伝う赤い玉がすごくすごく綺麗だったから。
だから よく腕を切るようになっていった。
手首よりもっと綺麗に赤が流れていくから。


腕から手首に…そして指先まで伝わって、ポタリと落ちる赤。
床に出来る丸い模様。
花びらにも似た可愛らしい模様。

ああ、だからか。
だからみんな手を切るのか。
赤が綺麗だから。
流れる赤が綺麗だから。
そっか…やっぱりみんな綺麗なものが好きなんだ…―――


ボクは、変な訳じゃない…



「腕、どないしたんや?」
自ら傷つけた腕を指差して尋ねられた問いに、用意していた答えを返す。

「ちょっと、転んだんだ」

傷を癒す役割と隠す役割を担った包帯の巻かれた腕を見下ろしながら苦笑する。

「…大丈夫かいな?」
「うん、少しぼうっとしててさ」

参ったよ、少し恥ずかしげに言えば大抵の人は『今度は気を付けろよ』と笑う。
こんな時 今まで培って来た外面の良さと我ながら自信のある演技力が役に立った。

…良かった…バレたら"変な奴"って思われちゃう…。



そしてまた、腕を切る。
綺麗な赤が流れる。
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