犬タロの作文
□夏祭り―貞Ver―
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涼しい風と共に、遠くから祭り囃子が聞こえてくる。
街の至る所に吊されている提灯にもそろそろ明りが灯され始める頃だろう。
道行く人達の表情は皆楽しげで、女の子達の華やかな浴衣の袖がまるで蝶のようにひらひらと揺れている。
そんな中をボクと…彼、『渚カヲル』は歩いていた。
「僕って浴衣似合うよね」
「………」
下駄をカラカラ云わせながら歩く彼の後ろ姿に、ボクは冷たい視線を送る。
「そう思わない?シンジ君」
「知らないよ」
振り向いた彼は深い緑色の浴衣を着て、すっかり御満悦と言った感じでにいっと笑った。
冷めきったボクの態度はあまり気にしていないらしい。
「男前度50%増しって感じ?」
あはは、と笑う彼にボクは彼にも聞こえるように大きくため息をついた。
確かに…、彼はカッコイイよ。
それは認めよう。
キラキラ光る銀色の髪。
鮮やかな緋色の瞳。
最高級の象牙細工のように白い肌。
背も高いし、足も長いし。
ボク何かよりずっとずっとカッコイイとは思う。
今着ている浴衣も彼の言う通り、良く似合っているし。
すれ違う人々も、彼のその姿に振り返ったり立ち止まったり…何だか世話しない。
けれど…、どうか騙されないで欲しい。
いくら外見が綺麗でも、中身までそうとは限らない。
綺麗な色したカエルが実は毒ガエルでしたって奴と一緒だよ。
そう…彼の性格は、本当に最低なんだから。
夏祭りに行きたい!!と、さんざん駄々をこねてくれた彼に無理矢理付き合わされているボクの今の服装は普通にハーフパンツにTシャツ姿。
てか、それで良いよね?
なのにコイツと来たら…
『夏祭りっていったら浴衣でしょ?風情ってもんがないね、君には』
とか言うし。
で、渋々タンスに埋まってた浴衣を貸してやったらやったで…。
『うわ、これめんどくさい!やってよシンジ君』
とか言いやがるし…。
だったら着るな!!って感じだ。
「ねぇ、シンジ君。綿菓子食べたい」
立ち並ぶ屋台を見ながら呟かれた彼の言葉をボクは無視した。
「君ってさ、顔だけ人間?」
「は?」
不思議そうに首を傾げた彼を、ボクはふふんと鼻で笑う。