犬タロの作文
□夏祭り―庵Ver―
1ページ/6ページ
夏祭りだけじゃない。
人が集まるイベント事は、はっきり言って苦手というか嫌いだ。
元々人ゴミは得意ではないし…人が多い場所に居るとどうしても気分が悪くなってしまう上に、動けなくなってしまうことも暫々あったりする。
だからそういった行事には極力近寄らないように…参加しないように…と昔から自分で自分に言い聞かせていた。
けれど…
「大丈夫かい?」
心配そうなその声に、気分の悪さよりも申し訳なさの方が目立った。
「…うん、平気」
人の波から少し外れた鳥居の元に座り込んだままボクは答える。
胃がムカムカしていて顔は上げられなかったけど、目の前に立つ人物がボクを本当に心配してくれている事は重々理解していた。
「しかし…本当に人が多いね。少し驚いた」
「そう、だね」
不意に感心したような口ぶりで呟かれた言葉に、少しだけ苦い笑顔が浮かぶ。
恐らく彼はすぐ側の通りを流れ続ける人の群れを眺めているのだろう。
いつもは閑散たるこの神社。
しかし今日は年に一度の夏祭りと云う事で、大変な賑わいを見せていた。
大勢の人が訪れるそこには屋台がずらりと並び、所々から人々の楽しげな笑い声や威勢の良い呼び掛けが聞こえてくる。
普通ならこんな時…はしゃいだりわくわくしながら屋台を覗き込んだりするのが普通の中学生というものだと自分でも思う。
それなのに…。
ああ…もう、何をしてるんだろう…ボクは。
ぐるぐると胸の中を駆け回る自己嫌悪にますます気分が落ち込んで、ボクはがっくりと肩を下ろした。
『縁日が開催されるらしいんだけど…良かったら一緒に行かないかい?』
そう誘われたのは、昨日の事。
夕方の帰り道…別れ際に言われたその言葉にボクの心は一気に弾んだ。
でも…今までボクは、大勢の人が集まる行事とかものすごく苦手だったから…。
そういった場所を自主的に訪れることは殆ど無く、訪れたいとも特に思ってはいなかった。
だけど、『カヲル君からの誘い』というのが…すごく嬉しくて。
自分の持病(と言っていいものか)について深く考えないまま二つ返事で頷いていたのだ。
結果は今の状況を見ればわかると思う。
此処に着いて…ものの10分でダウンだ。
…本当に情けない。