HAPPY BIRTHDAY

□鎮魂歌の雨
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03月13日


今日は俺の―――。





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久々に仕事がOFFになり、朝から俺は布団に入って爆睡をかましていた。ベルが起こしに来るまで、大切な用事があることも忘れて。

08:48

初めに視界に入って来たのはディジタル化された時計の針だった。俺は時計を見るなり跳ね起きて出かける支度を急いでした。

((やゔぁい))

そう思いながらも、慌ただしく洗面し、スーツを身に纏い、髪を整えた。最低限のことはしなければならない。いくら主役じゃ無いからといって、式典にはそれなりの格好で行くものだ。ましてや、昨日の夜のままの格好で行くだなんて、俺と暗殺部隊の名が落ちる。いや、俺が暗殺部隊の名を落としてしまうのか。そんなことを考えながらそそくさと自室から出た。


どうしてこんなにも広いのだろうか。

((ゔぉ゙ぉおい、時間が勿体ねぇぞぉお!!))

どうしてこんなにも理不尽な程広いのであろうか。これでもボンゴレアジト別館なのだろうか。
いつもはそんなこと、糞程にも考えたことはない。けれど、今日ほどこの広さが恨めしく想うことはない。
急ごうと思い走ろうとするが、それを拒むかのように俺の動きを抑制するスーツ。

やっとの思いで玄関にたどり着いたものの、更にそこで俺を足止めするモノが。

((っち。なんでこんな朝早くからコイツが起きてやがる。))

そこには、ボンゴレ独立暗殺部隊VARIAのBOSSであるXANXUSの姿があった。

「よぉ、カス。」

俺が急いでいるのを知ってか知らずか、暢気な口調で声を掛けてきた。
しかし、俺はその声を無視して玄関を飛び出し愛車に乗り込む。

時計は09:01を指していた。



出せる限りのスピードを出して来た為か、式典会場に着いたのは09:23であった。

車から降りると春を忘れさすかのような、少し冷たい風が吹いた。長く整った銀髪が風に揺れる。その感覚を少しだけ味わい、会場に足を踏み入れた。



会場となったのは俺が通っていた小さな学校の体育館。入口から入るときちんと整えられた椅子が見える。そこに座る人人人。
現在、在学中の生徒を最前列にし、その後ろに卒業生、右側には現教職員、左側には三列にもなる来賓席を設けているにも関わらず、空席は僅かだ。
俺は出席簿に名前を記入し、後ろの壁に持たれるようにした。

式は中盤にはいっていた。壇上では学生時代にあったことも無いような、中年の男や女が次々に挨拶をする。この日のために事前に独自で練習したであろう長ったらしい文章を。どいつもこいつも言葉は違えど、内容に変わりはなかった。校長の挨拶も例外ではない。この学校の過去の歴史を振り返り、閉校が悲しい。残念だ。と皆口々に言った。こいつらにこの学校が失くなる哀しみや、淋しさ、心の頼所がなくなった絶望感などを俺達以上に解るものか。ましてや、卒業生でも無い奴達が理解できるはずが無い。挨拶は上辺だけで書いたものにしか過ぎない。そこにはこの学校にたいする思いが、愛がなかった。

((こんな、統合記念式典なら来ない方が良かったぜぇ。))

出席したことに少し後悔を覚えた時、聞き覚えのある声が耳に入った。友達の姉の声であった。彼女もまた、この学校の卒業生である。

その声により、式は進んでいた。退席しようかと考えていた俺は、もう少し残ろう。そう想った。



そして会場は一気に闇へと変わる。





それは俺が最後の学年で担任をしていた、素晴らしい先生が編集した1本のビデオ。
地元の風景とふるさとの音楽とともに始まったビデオは、この学校に対する沢山の人々の思い出が詰まったもの。63年もの長い間、我々を見守ってきた学校に感謝を覚える。そんなものだった。

((全く、編集した人の性格がよく出てるぜぇぇえ。))

何故か可笑しく思えて、一人微笑んでしまった。

ビデオが終ると式がほぼ終ったも同然で、舞台袖から響くピアノとともに懐かしい音が流れてきた。創立時にPTA会長だった人物と音楽教師が作った校歌。もう何年も聞いてないのに、歌ってないのに俺の脳裏にはしっかりと刻み込まれていた。軽快な音。こんな歌も、もう歌われることはない。これが最後の歌。そう思えてきて心がジンとするのと共に、俺の声は漏れていた。


それはひどくやさしげな声。
だけどひどくはかなげな声。


歌い終ったあと、何とも言えぬ達成感と、何とも言えぬ悲愴感が溢れた。本当に失くなるのだ。そう感じた。



式典が終わり外に出ると空は曇っていた。最後に残ったイベント。記念碑の除幕式を前に今にも降り出しそうである。いや、俺が地に足をつけた途端、僅かながら降り出した雨。それに伴いせかすかのように行われた除幕。
幕下から顔を覗かせた碑は、雨に負けることのない、輝かしいものだった。










帰り道。いよいよ本降りになってきた雨。それは俺が愛した母校に別れを告げる鎮魂歌の雨。


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