テニスの王子様U

□世界にたった二人
1ページ/1ページ






担任に押し付けられた、山程ある仕事の所為で帰るのが遅くなった。





今はもう日が落ちかけている。








少しずつ暗くなっていく外の景色に、あたしは小さなため息をついた。








「早く帰ろ…」








誰に言う訳でもなく、ただ自分に言い聞かせるように呟く。





そして、あたししか居なかった教室を出て玄関へ向かって歩き出した。














予想外だった。





もう、校舎に残っているのはあたしだけだと思っていたし、何よりこいつが居るなんて微塵も思ってなかった。








あたしのクラスの下駄箱。





その目の前でどっかりと腰を降ろし、イヤホンで音楽を聞いている。








「……謙也…?」








あたしがそう呼べば、謙也は片方のイヤホンを外してこっちを見上げる。








「…遅いわ、あほ」



「……ごめん…」








待ってて、なんて言ってないのに。





不意に立ち上がって、優しくあたしの頭を撫でる謙也の優しさが、すごく嬉しい。








「待っててくれたの?」



「当たり前やろ」








靴を履き替えながら聞けば、笑顔でそう返って来た。








「ありがと」



「ん。ほら、帰るでー」








差し出された左手。





あたしは、迷う事なくその手を掴んだ。



瞬間、謙也の手に力が入り、強く握られる。




あ、謙也の手、あったかい。








どうしよもないくらい愛しい気持ちが沸き上がってきて、隣を歩く謙也にこれでもかってくらい近寄る。





そして、今一番言いたかった事を伝えてみた。








「謙也?」



「んー?」



「………大好き」



「………ん、俺も」








その後も、ずっと手を繋ぎながら他愛のない話をして歩いた。








なんだか今日の夕日は、やけに綺麗に見えて。





なんとなくだけど、世界に謙也とあたしだけしか居ないような、気がした。








『世界にたった二人』





(あたし達は今)
(オレンジ色の世界で二人きり)





お題配布元サイト様→確かに恋だった





END


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ