テニスの王子様T
□泣いてる暇なんてない
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茜色に染まった空。
心地の良い風が俺達を追い越して行く。
斜め前を歩く先輩の背中は日に日に小さくなっている気さえ感じた。
「先輩…?」
そう声を掛ければ、先輩は前を向いたまま返事をしてくれる。
「んー?」
「先輩…無理してませんか?…一人で何でも抱え込んでませんか?」
先輩の歩く足がぴたりと止まった。
そしてやっぱり前を向いたまま答える。
「ひよには何でも分かっちゃうんだね…凄いや」
声は笑ってる。でも、こっからじゃ見えないけど顔は笑っていない。
俺は先輩の小さな体に腕を回して後ろから抱き締めた。
「…あたし、ちょっと疲れちゃった…」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で先輩は呟く。
正直、今にも壊れてしまいそうで怖かった。
「…泣きたい時は泣いてもいいんじゃないですか?俺、いくらでも相手します」
「……ありがとね…ひよ」
さっきよりも強く抱き締めてそう言うと先輩は笑ってそう言った。
「でもね、あたしには泣いてる暇なんてないの。あたしなんかが泣いちゃったら、皆に心配かけちゃうでしょ?だから泣いてる暇なんてない」
笑顔で言う先輩は眩しくて。
でもやっぱりどこか儚げで。
「先輩らしいですね…でもあんまり無理しないで下さい」
「うん」
「俺はいつでも先輩の味方です」
「…うん」
「先輩…大好きです」
「……ありがとう」
いつか先輩が安心して泣けるように、俺はもっと強い男になる。
俺の胸で安心して泣けるように…。
先輩の全てを受け止められるように…。
―――END―――