Novel(倉庫)

□たまに見せる素直がいい
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俺の恋人は嘘つきだ。
単に人を騙したりする悪意のあるものではなく、人を気遣っての善意の嘘。
だからこそ、困る。





「先輩、先輩っ!荷物運び終わりました!」

「ん、ご苦労だったなっ」



ほら今だって…



「あとはこの棚整理したら終わりだからお前達はもう帰っていいぞ」


あんなニッコリ笑っちゃって…



「はーい!」

「お疲れ様でーす!」

「…お疲れ様です」

「先輩っ…!いつも俺達先に上がらせてもらっちゃって…悪いですっ…」



そうだ作兵衛、言ってやれ!



「いやいや、本当にあとちょっとだからいいんだ」

「でもっ…」

「俺も下級生の時は先に帰してもらってたからな、気持ちだけ貰っとくよ」

「い、忙しかっったら呼んで下さいよ!?お、お疲れ様でしたっ!」

「おう、お疲れっ!」



そう言ってまたあの笑顔…
はぁぁ…何だってあの人は…

仕事があとちょっととか…
学園で一・二を争う程の忙しさを誇る用具委員会がそんな事あるわけがない。
俺の生物委員会だって忙しいけど…全員で取り組んでるからそこまで大変だと思った事は無い。
でも用具委員会は…食満先輩は違う。
力仕事が多い用具委員会なのに、自分以外は下級生だからと…そこそこ仕事させたら先に帰してしまうのだ。

自分だって六年、勉強や実習で忙しくないわけがないのに…



「先輩っ」

「お、竹谷か。ちょうどいい所にっ!」



用具倉庫の入口から顔を出して声をかけると、汗だくで作業する先輩が俺の方をみて笑顔を浮かべる。
かわいい…



「何ですか?」

「この荷物上げるの手伝ってくれ。一人でやるには骨だなー…と思ってたとこだったんだ」



そう言って困ったように笑う。
あぁもう…!
そんな先輩がかわいすぎて文句も言えずに手伝う俺。



「…よし!これであらかた片付いた。ありがとなっ竹谷!」

「…いえ」



いつもの笑顔で俺の肩をポンポン叩く先輩。
…先輩がいいならいいけど…いやいや、やっぱり委員会の仕事なんだから後輩にもっと頼ってもいいんじゃないか!?いやでもそこが先輩らしいってゆーか…



「どうした?」



一人で悶々と考えていたら先輩に声をかけられた。
大丈夫かこいつ…みたいな顔で。
俺がこんなに先輩の事思って悩んでるってのに…!
ムッとしたので言ってやった。



「…何で後輩には『手伝って』って言えないんですか…」

「あ?…あ〜、さっきの見てたのか…?」

「さっきのもですけど、いっつもそうじゃないですか…後輩帰した後に先輩一人で残って…」



すると先輩はバツが悪そうに…



「や…ほら、あいつらはホントによく頑張ってくれてるから…これ以上やらせんのも…かわいそう…かな、と…」



なんて言う。
だから…



「…じゃあ、何で俺には手伝えって言うんですか?」



つい言ってしまった。
一瞬驚いた顔をした先輩はすぐに困った顔になったので…



「いやっ、そのっ…迷惑とかではないですよ!?むしろ先輩の力になれて嬉しいってゆーか…!でもいつもこんな事してたら先輩が大変そうで心配っていうか…!」



力いっぱい弁解した。
するとちょっと安心したのか俺に顔を向けて小さく笑う先輩。



「そっか、心配してくれてたのか…ありがとなっ」



俺より少し背の低い先輩が俺の頭に手を置いてポンポンとする。
小さい後輩扱いか!とも思うが悪い気はしない。
むしろちょっと嬉しい。



「後輩先に帰すのはさ…」

「え?」

「後輩帰して俺が一人残ってると、お前必ず来るだろ?」

「え…」

「だからいつも皆帰して待ってんだよ」



そう言ってニカッと笑う先輩。
この人は…今自分がどんな事を言ったのかわかってるのだろうか?
普段は人に気ばっか使って(主に後輩に)嘘つきで、そのくせ俺に対しては素直じゃない。
俺がどれだけ好きと言っても中々言ってくれない。
誘うような素振りを見せてくるのに先輩から誘われた事は一度も無い。
だから先輩の言葉に驚いて…



「先輩、今の…すんごい誘い文句ですよ…ね?」



って聞いてみたら…
みるみる耳まで真っ赤になりだした。
気づいてなかったのか…。
赤くなった先輩がかわいくて…



「先輩って…妙なとこ素直ですよね…」



って言ったら…



「!う、うっせぇっ…!!」



と頭突きされた。
痛い。
その後、顔を赤くしたままの先輩はずっとご機嫌ななめだったけど…照れ隠しで。
嘘つきで素直じゃない先輩が、たまたま見せた素直さがかわいかったのでよしとしよう。





(何ニヤニヤしてんだ…)

(素直な先輩はかわいいなぁと思って)

(アホッ!!)





たまに見せる素直がいい











* * * * *

素敵企画たけまにあに投稿させて頂きました!

この二人…本当に好きv

たけまにあがもっともっと増えますようにっ!!



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