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□たまご達のクリスマス
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「―――という事がありまして」

「なるほど。…で、その事と我々と何の関係があるというのだ?」



ここは六年長屋の一室、い組の仙蔵と文次郎の部屋である。
三郎をはじめ五年の五人は入口付近に正座しており、奥に控える六年勢に本日あった出来事を説明していた。
まあ控えていると言っても…本を読んでいたり、いそいそと茶の用意をしたり、茶菓子を巡って喧嘩を始めようとしたり、その隙に掻っ払ったり…まともに聞いているのは仙蔵だけのようである…が、その仙蔵も実の所、五年達に背を向け書き物をしながら応答していたりする。
要するに、誰ひとりまともに取り合っちゃいない。

(((((一人くらいまともに話聞け…!!)))))

五人の心が一つになった瞬間であった。

そうは言ってもさすがは六年生、茶菓子を口でモゴモゴさせながら…



「仙蔵の言う通りだ、何で私達に関係があるんだ?」



と小平太が言う。



「確かに。喧嘩を仲裁するのはいいが、何でそこまで立ち入ろうとするんだ?…ってバカタレィ!小平太食い過ぎだっ!!!」

「それは俺のだっつってんだろうが!!おい!―…仲直りするかどうかは当人同士の問題だろう。他人の指図で和解したって何にもならないぞ?」



茶菓子争奪戦を繰り広げていた文次郎と留三郎にもそう言われ、竹谷の口から本音がポロリ…。



「あ…以外と聞いてたんですね…」

「以外って何だよ以外って」

「俺らをナメてんな?」

「いっ!いえ…!?そんな事…あるわけっ…無いですよっ!!?」



当然のように睨み付きで突っ込まれる竹谷。

((((バカ…))))

他の五年四人がそう思ったのは言うまでもない。
狼狽える竹谷に呆れつつ口を開いたのは兵助であった。



「我々も最初は放っておこうと思ったのですが、さっきの話しには少し続きがありまして…」

「続き?」



茶の入った湯呑みを盆に乗せた伊作が五年陣の前に腰を下ろす。
珍しく零さなかったな…とその場の全員が心で呟いた事はさておき、次に話しはじめたのは雷蔵で…



「一年生達を食堂に送った後、僕たちも向かったんです。そうしたら…前を歩いていた一年生の話が聞こえてきて…」





『サンタクロースか…』

『ん?どうかした、きりちゃん??』

『いや…あの日もちょうどこんな時期だったなって』

『あの日って?』

『俺の村が焼かれた日』

『…っ!』

『あの日さ、俺は親から言われた手伝いもせずに村から出て遊びに行ったんだ。そんで帰って来たら…村は焼かれてて…』

『……』

『泣いて叫んで、どれだけお願いしても家族も村も帰って来なかったんだけどさ。もし、あの時の俺が手伝いをちゃんとするようないい子だったら…サンタクロースが願いを叶えてくれたかな…って思ってさ』

『きり丸ぅ…』

『って!こんな話してる場合じゃなかった!!早くしないと定食無くなっちまうっ!!行くぞ乱太郎っ!!!』

『う、うん…待ってよー!!』





「―――という話を聞いてしまいまして」

「「「「「「……………」」」」」」



雷蔵からの説明を受け、黙りこくる六年。



「そんな話を聞いてしまっては上級生たるもの、かわいい後輩の為に何かしてやりたいと思うのは当然ではないでしょうか?」



すかさず三郎がまくし立てる。



「なるほど…」

「で、その『何か』に俺達も協力しろって事か」

「さすが先輩方。察しが早くて助かります」



仙蔵、文次郎の言葉にニッコリ顔の勘右衛門が答える。
六年全員の…

((((((食えん奴…))))))

な顔に、勘右衛門以外の五年は苦笑するしかない。



「それで…「何か」って何する気だ?」



暫しの沈黙の後、最初に口を開いたのは留三郎で…



「そういう事なら…出来る限りは協力するよ」

「…(コクリ)」

「楽しい事がいいな!」



伊作、長次、小平太と続く。
小平太の言葉に一瞬ニヤリとした三郎が、すぐにニッコリ顔をして…



「ええ…楽しくなりますよ。きっと…」



なんて答えたが…

((((((何がだよ…))))))

という突っ込みはあえて口にしなかった六年勢であった。















そして次の日から準備が始まる。






『クリスマスを我々でやろうと思うんです』

『『『『『『はぁ?』』』』』』



「何か」の説明を始めた兵助の一言に六年全員が怪訝な表情を見せる。
予想通りの反応とでも言うかのように説明の続きを話し出す勘右衛門。



『先ほどの話にも出たクリスマスという南蛮行事なんですが、詳しいことを省きますと「サンタクロースという老人が良い子の所にプレゼントを持って来る日」らしいんですよ』

『何!?プレゼント!!?それでっ??』



プレゼントの言葉に反応した小平太が目を輝かせて続きを促す。



『それでですね、クリスマスを信じてる怪士丸達はもとより、クリスマスをバカにしている伝七達だって本心ではきっと楽しそうだと思ってるはずなんですよ』

『まあ、そうかもな…』



そう続ける竹谷に留三郎はじめ、六年全員が頷く。



『そこで、我々五・六年で密かにプレゼントを用意し、クリスマスの前の夜…寝ている下級生の枕元にこっそり配ろうと思うんです』

『ほぅ…』

『こっそりってとこが鍛練になりそうでいいな』

『っは、鍛練バカが』

『んだとこのヘタレ!』

『あぁ?やんのか!?』

『上等だコラ!!』

『黙れ馬鹿共』



雷蔵からの提案に満更でもないい組の二人。
だが、留三郎のちゃちゃにより今にも取っ組み合いの喧嘩を始めようとする毎度お馴染みの二人にすかさず釘をさす仙蔵。
その目があまりに冷ややかで…



『『すみません…』』



素直に謝る二人なのであった。



『で、プレゼントって言うけど具体的には何をあげる気なの?』



三人のやり取りに苦笑しながら五年に尋ねる伊作。
横から小平太の、やっぱりおやつか?との問いに笑顔で一瞥した三郎が答える。



『そこが今回の味噌です』

『って言うと…?』

『下級生達から欲しいものをさりげなーく聞き出し、まあ全ての希望を聞くわけにはいかないでしょうが、概ねそれに沿ったものを…と考えています』

『諜報活動の実習みたいだなっ』

『その通り。ただ単にプレゼントをあげるだけでなく、どれだけ下級生の心根を暴き出せるか…という我々の術の力量も試される一大イベントなんですよ』



今回の主旨が明らかになりにわかにやる気の出てきた六年達。
だが、今まで黙って聞いていた長次が口を開いた。



『…話はわかった。きり丸については任せろ。だが、怪士丸と伝七達の事はどうする?クリスマスをやっただけでは仲直りなど出来ないと思うが』



もっともな意見である。
クリスマスパーティーをしてプレゼントをもらっただけではどう考えても仲直りはしないだろう。
きっと伝七、佐吉は難癖をつける。
すると勘右衛門がにこやかに微笑みながら…



『ですのでそこも先輩方の手腕次第というか…あの子達が自主的に仲直りできるよう取り計らって頂きたいのです』



さらっと言ってのけた。
そういう事か…と半ば呆れる六年勢。



『ったく…ゴタゴタと回りくどい…』

『そうならそうと初めっから「あいつら和解させたいからお願いします」とか言やぁいいもんを…』



文次郎と留三郎の意見が一致する。
雹でも降るのだろうかと皆が思案する中…



『クリスマスをやってやりたいというのも本心でしたから』

『ぶっちゃけ楽しそうですしね』



兵助、竹谷が本音を明かす。
そして雷蔵も。



『きり丸にも、楽しい冬の思い出を…作ってやりたいん…です』



拳を握り、悲しげに俯く雷蔵。
一時、皆も一様に黙り込んだが、凛とした声がその沈黙を打ち破る。



『勝手のわからん行事だからな、準備は早いにこした事はない。明日から早速準備に取り掛かるぞ』

『そういや明日は休みか。昼から委員会やる予定だから、探りいれるにゃ持ってこいだな』

『保健委員会も昼からだからそれまでクリスマスについて勉強しない?』

『…なら、資料を持ってくる』

『お、手伝うぜ』

『ははっ、テスト前日の山張りみたいだなー』



わいのわいのと話を進める六年をぽかんと見つめる五年。



『おい!てめぇらが言い出しっぺだろうが!ボケッとすんな!!!』

『茶と茶菓子と火鉢を持ってこい。今夜は徹夜だ』

『私、餅も食べたいな!』

『竹谷、餅もよろしくね』

『えぇっ!?何で俺っ…!??』



名指しされた竹谷に続き他の五年が口を開く。



『え、あの…』

『そんな簡単に了承してもらえるんですか…?』

『てっきり…』

『「余計な事はするな」とか説教されるもんだと思っていましたよ』



予想していなかった六年の反応に思わず本音が漏れる五年達。



『あのなぁ…初めっから断られると思ってたんなら頼み事なんかしてくんな!』

『後輩の為になんかしてやりたいって思うんのは僕らも一緒だよ』

『あいつらの驚く顔見たいからなっ』



文次郎、伊作、小平太がそう言うと…



『その為にはまず下調べだ。不破、ボサッとしとらんとさっさと長次を手伝いに行け!図書委員だろう?』

『は、はいっ!!』



薄く笑みを讃えた仙蔵に叱咤され、雷蔵は先に出て行った長次と留三郎を追いかける。
残った者にもテキパキと指示を出す仙蔵。
こうしてクリスマス大作戦は始まった。










続く

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