Novel(倉庫)

□無自覚の子羊
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校庭の奥にある古倉庫。
校舎近くに用具倉庫を作った為に今では殆ど使われる事の無い物を置いてある、殆ど使われない倉庫である。
しかも校庭の奥、木々に囲まれた場所に有るため一見どこにあるのか分からない。
校舎からの音はもちろん、校庭の騒ぎ声ですら届きにくいこの倉庫。
逆に言えば倉庫内の音も外に聞こえにくいという事になる。



倉庫に到着した二人。
早速中に入って探し物を始める。



「で、何を探してんだ?」

「それがさ、鼻メガネのセットがあったはずだから探して来いって学園長が…」

「何に使う気なんだよそんなもん…」

「はは、ホントにねー…」



げんなりと苦笑しながら目的の物を探す二人は入口付近から奥へと進んで行く。
最奥の棚を探っていた留三郎が…



「おい伊作ー、本当にここにあるって言ってたのかー?」



と後方にいた伊作へ振り返ろうとしたその時…



「んぐっ!?」



口を押さえられ力任せに床にたたき付けられた。



「かはっ…!!!」



たたき付けられた衝撃に咳込む留三郎。
何が起きたのか分からない。
それでも忍らしく体勢を立て直そうとするが、それよりも早く俯せ状態で後ろから馬乗りされ両手を背中で拘束されてしまった。



「何っ…なんだっ!くそっ!!!」



と、辺りを見渡せばそこには見慣れた緑が立っていて…



「いいザマだな、留三郎」

「確かによく似合ってんな」

「仙蔵!?文次郎!??テメェらなんの真似だっ!!!」



清々しいまでの笑顔の仙蔵と見下した様にからかってくる文次郎。
当然突っ掛かる留三郎だが背中に乗った人物によって遮られる。



「私もいるぞ!!留三郎は軽いな、予想異常に飛んだから驚いたぞ?」

「んなっ?小平太!?は、放せこのっ!!」

「それはダメだ。放したら留三郎逃げるだろ?」

「当たり前だっ…!!!」



無邪気にジャレている様にしか見えない小平太。
しかし腕も体もきっちり押さえ込まれて逃げる隙が無い。

どけ!放せ!何なんだ一体!!と騒ぐ留三郎。



「はっ!伊作…伊作はどうした!?」



一緒にいたはずの伊作の姿が見えない事に気が付き名を呼ぶ。
すると…



「ここにいるよー」



と、今度も物影から頭だけ出して留三郎に返事する。
何事も無かったかの様に留三郎に笑顔を向けて。



「っ…!!伊作っ…テメェらっ…初めっからグルかよ…!!!」



あらん限りの怒りを込めてその場の四人を睨みつける。
が…



「ようやく気付いたか」

「注意力が足らんのだ、バカタレ」

「見事に騙されたな留三郎!」

「ごめんねー♪あ、でも学園長から鼻メガネ頼まれたのは本当だからね?もう届けたけどさ」



全く悪びれた様子の無い四人に更に怒り心頭な留三郎。



「このっ…!何が目的だっ!!」



その言葉に留三郎以外の全員が顔を見合わせる。
すると絹糸のような長い黒髪を揺らしながら仙蔵が近付いて来る。
目の前でしゃがんだかと思うとクィと顎を上げられ徐に口付けされた。
突然すぎる出来事につい舌の侵入を許してしまう。



「んむっ…!ん、ぅんんー…!!!」



仙蔵の口吸いは巧みで逃げ惑う留三郎の舌を捕らえては激しく絡ませる。
クチュ、チュクという水音と共に漏れてくる留三郎の上擦った声。
二人の口吸いは淫靡で、眺めていた三人の喉がゴクリと鳴った。

一瞬咬んでやろうと思った留三郎であったが、以前その気は無くも咬んでしまった時の仕置きを思い出し、声にならない抗議を繰り返すのみであった。



「ん゙ん〜!!む゙ー!んっ…!!!ぅ、ん…」



暫くして留三郎がやや大人しくなった事に満足したのか、ようやく仙蔵が口を解放した。
チュクッという水音と共にゆっくり離れる口と口。
二人の間に引かれる銀糸がキラと光る。
そして仙蔵はさも当然かのように…



「これが目的だが?」



と凛とした声でキッパリ言った。
途端にその意味を理解した留三郎は顔を赤らめ…




「んなっ…!!あ、阿保かお前らっ…!!今から18期最終回だ…」

「んな事はわかってる」

「んだとっ!!?」

「それについては長次が頑張ってくれた」



抗議をするも文次郎により一蹴されてしまう。
続けて仙蔵が長次の名前を出す。
今まで姿を見ないと思っていた長次が名前を出された事で伊作のいる棚の影から出て来た。
手に冊子と筆を持って。



「長次っ!こいつらどうにかしてくれっ!」



いつもこの手の事には参加しない長次。
そんな長次に向かって縋る思いで助けを求めたが…



「………」



黙ったままフイと横を向かれてしまった。



「…!!」



愕然として固まる留三郎。
そんな留三郎を余所に何やら話が始まる。



「上手くいったか?」

「…ああ、これで終わりだ」



文次郎の問いに答えながら冊子に何やら書き込む長次。



「お疲れ様、しっかしよく終わったねぇ」

「…図書委員の皆が手伝ってくれたからな」

「えらいな図書委員のみんなは!今度褒めてやろう!!」

「不破は当然として、なかなか使えるではないか」



長次は皆の言葉にコクコクと頷きながら数冊の冊子をトントンと揃え…



「…お前達の台本、直しといたから後で目を通してくれ」



と、留三郎には何だかわからない事を言っている。



「それっ…最終回の台本っ!直したってどういう事だよっ!?」

「…」



しかし長次は答えない。
代わりに伊作が口を開いた。
手に何やら怪しい竹筒を持って…。



「長次が直したのはね、留三郎の出番の部分だよ。学園全員分のね」

「!?どうしてだっ!!?」

「だって今から留三郎すっごいいやらしくなっちゃうのに、撮影なんて無理だろう?」



朗らかに笑う伊作であったが、その下に隠れる黒いものを感じ取り、留三郎の背筋に冷たいものが走る。
が、五人が今から自分にしようとしている事を理解し、顔をカッと赤らめながら怒鳴る。
が…



「!!!ばっ…ふざけんなよっ!!いい加減にしろっ!!!」

「ふざけてなどおらん」



気持ちいいくらいスッパリと仙蔵に一蹴された。



「そうそう、私達は真面目だ」

「っ、余計悪いわっっ!!ホントいい加減にしろって…!!!」

「…いい加減にするのはお前だ、留三郎」

「な…んでだよっ!?」



やっと口を開いたと思った長次は…少しイラついいるような口調だった。



「自分のした事を分かってないらしいな…」

「これだから無自覚って奴は怖いよね…」

「留三郎、三之助といい勝負だぞ」

「だからっ!俺が何したってんだっ!!」



次々に非難される留三郎、皆が何に対して非難してくるのかがわからずイラつきは更に増す。
そこへ…



「留三郎…我々は18期が始まってからというもの、お前の言動に憤りを覚えていたのだ」

「…?」



と、仙蔵は言うが留三郎には皆を怒らせるような事をした記憶がない。



「その顔は分かんないって顔だね。思い出してごらんよ。まずは『夜間パトロール』の段での寝間着披露…の、次の段でチビ留三郎…鼻水涙目…」

「…『利吉の話を聴く会』の段…伸びて横抱き…利吉さんにどれだけ煽られた事か…あの後山田先生にも覆いかぶさって…」

「『ギンギンレシーブ』の段ではやたらと出張るし、雑渡昆奈門に接近されるし、最後…与四郎から守ろうと思って私が出たのに留三郎怒ったし…!」

「そして一番問題なのが…寝間着で夜這いだっ!!!風呂場のシーンだけでも充分問題なのにっ…頬を染めるわ、夜這いはするわ…。あの時の私達がどれだけ理性を保つのに必死だったか分かるか!?」

「あれだけ煽られるだけ煽られて…それでも公共放送だの教育番組だのと、手が出せんかったんだぞっ…!!!」



皆からの言葉にそういやそんな事もあったな…などと18期を思い出した留三郎であったが…



「ちょ…ちょっと待て!!確かにそんな事はあったが、別にそんなつもりじゃっ…!!!」



必死に弁明する留三郎。
しかしその言葉が受け入れられるはずもなく…



「そんな決まり文句を聞く気はない」

「…今回はダメだ」

「もう我慢できないっ!!」

「まあ、自業自得だな」

「そうそう、諦めて大人しくしといた方がいいと思うよ?」

「―…っ!!!!!」



口々に否定の言葉を発する。
絶句する留三郎に…



「それじゃそろそろ始めよっか。んじゃとりあえず留三郎…これ飲もっ?」



伊作が手に持っていた怪しげな竹筒をチャプチャプと音を立たせながら近づいてくる。



「やっ…だ!!んな怪しすぎるもん飲めるかっっ!!!」



小平太に体を押さえられながらも身を捩って暴れる留三郎。
伊作が竹筒を口に押し付けるも唇をギュッと結んでそれを拒否する。



「んもー、往生際が悪いなぁ。文次郎ちょっと手伝ってよ」

「しょうがねぇな…おい留三郎、顔動かすなって」

「ん゙ー!!ん゙んんー!!!」



伊作に言われ留三郎の顔を固定する文次郎。
しかし唇は依然固く結ばれたまま。



「ほらほら留三郎ー、お口開けてー」

「んっんん゙ー!!!」

「どっちにしろ飲む事になんだからさっさと諦めろって、オラ!」



そう言いながら文次郎は留三郎の顎と額をがっしり掴み、留三郎の口を無理矢理こじ開けた。



「やっと開いたねー。じゃ留三郎、いっぱい飲んでね?」

「っが!あ゙あ゙…っ!!!」



伊作が開いた口に竹筒の中身を注ぎ込む。
口から溢れたところで文次郎が、先ほどこじ開けた口を今度は閉じさせる。
伊作は鼻で呼吸が出来ない様にと鼻を摘まむ。
こうなると呼吸をするためには口内のものを飲み干すしかない留三郎。
限界まで堪えたが…さすがに堪え切れず、その怪しい液体を飲み込んだ。
留三郎の喉が上下した事を確認した伊作と文次郎は口と鼻を解放してやった。



「がはっ…!はぁっ!はっ…何っ…飲ませ、たっ!!?」



咳込みながら酸素を必死に取り込む留三郎。
この状況で飲まされるものなど分かり切っていたが、それでも聞かずにはいられなかった留三郎に一際優しい微笑みを浮かべた伊作が答える。



「ふふっ、とーっても気持ちよくなれる薬だよ♪しかも僕が改良に改良を重ねた特別製っ!まだ残ってるから全部飲んじゃおう?」

「…っっ!!!!!」



予想はついていたものの、改めて突き付けられた事実に青ざめ固まってしまう留三郎。
そんな事はお構い無しにまたも伊作と文次郎の手が留三郎に伸びる。
抵抗虚しくさっきと同様の事を2、3回繰り返され、竹筒の中身を全て飲まされてしまった。



「―…はっ!はぁっはぁっ…!!くそっ!!!離せってんだ!!!」



それでもまだ暴れる留三郎。
その様子を見た小平太が伊作に問い掛ける。



「伊作ー、まだこんな暴れる余裕あるみたいだぞ?薬が効いてないんじゃないのか??」

「そんなことないよ?もうちょっと待ってて♪それより先に準備しちゃおうよ」

「そうだな、もうすぐ撮影の時間だしな…」



留三郎を全く無視して繰り広げられる会話。
留三郎が再度怒鳴ろうとした瞬間、ある人物の行動によりそれは妨げられた。










続く

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