Novel(倉庫)

□その一切が…
3ページ/3ページ

*後編*











四年生となった今、委員会の仕事は全て先輩と共に行えるようになった。
時間が遅くなろうが、危険があろうが関係なく。
それに、細かい仕事が苦手な七松先輩に代わり、日誌を付けたり備品の点検を手伝ったりする事もあり、先輩と共に過ごす時間は格段に増えた。

ずっと…という訳ではないが、今の状況に私は満足だった。





いや…
これで満足なのだと、自分に言い聞かせていた。



だって…



そうだろう?



そうでもしなければ、堪えられない。





先輩は六年生。
次の春を迎える頃にはもういない。

私の全く知らない世界に行き、そして二度と会う事もない。



先輩に寄り添い支える相手がいたとて、それは私ではないのだから。



堪えられる訳がない。



今以上を望んでは…。















もうすぐ夏休みというある日の夕暮れ時、いつものように下級生達を先に帰してやる。

「よーし!お前達はもう帰ってもいいぞー!!」

そう言ってニカッと笑う先輩に、下級生達は待ってましたと言わんばかりに声を揃えて挨拶する。

「「「はいっ!お疲れ様ですっ!お先に失礼します!!」」」

泥だらけになった下級生達を若干哀れに思うが、泣き言は言っても文句は言わずにこの暴君と名高い七松先輩に付いてくるあたり、先輩の人徳によるものだと思わざるをえない。
そう、ムチャをする割には好かれているのだ。
七松先輩は。

「「「滝夜叉丸先輩もお疲れ様ですっ!お先に失礼します!!」」」

これまた声を揃えて私にも挨拶する下級生達。

「ああ、また明日な」

と言って手を振る。
が、ある事を思い出し慌てて…

「四郎兵衞!三之助を長屋まで連れてってくれ…!!」

「わかりましたー」

毎度の事ながら四郎兵衞の返事を聞き、ホッと胸を撫で下ろす。
夜になって迷子捜索はしたくないからな…。


さて、ここからが本当の委員会と言ってもいいだろう。
下級生を連れて行けないような演習コースの下見、あちらこちらに散らばった体育で使う用具の回収及び点検、備品にかかる帳簿付け、日誌記入…
先輩と二人きりとはいえ、この内容では甘い雰囲気なぞ望めるはずもない。
…そんな事はありえないと分かっているのに、今以上を望まないと誓ったはずなのに、万が一でも期待してしまう自分に嫌気がさす。
そんな気持ちを押し込めて…

「先輩。まずは演習コースでも下見に行きましょうか?」

…。
返事がない。

「先ぱ…」

「滝夜叉丸」

聞こえていなかったか?と、もう一度先輩に話しかけようとすると、それは先輩が私を呼ぶ声に遮られた。

「はい?」

と、先輩の後ろ姿を見つめていると…

「話があるんだ」

そう言ってこちらを振り返った先輩の表情は、いつもの太陽のような明るさは無く、微笑んではいるもののどこか寂しげで、泣きそうにも見えた。
こんな先輩の顔は初めてで…


思わず胸が高鳴った。


先輩から目が離せず固まってしまった私。
そんな私をまっすぐ見つめ返す先輩。
先輩の唇が動き、出てきた言葉は…





「滝が好きなんだ」





…今、何と?



「好きだ」

「好きなんだ」



それは私が欲してやまなかった言葉達。
呆然としている私に少し近付きながら、先輩は続ける。

「みんなで話していたんだ、卒業してからの事…」

「みんなバラバラになって、もう会えないかなって。学園のみんなとも…」

そう、だから…
だから私は…今以上を望むまいと心に誓ったというのに…
なぜ…

「その時…どうしてか、滝に会えなくなるのは嫌だと…思ったんだ」

なぜ、あなたは私の誓いを破らせようとするのか…

「長次も留三郎も伊作も仙蔵も文次郎だって会えなくなるのは淋しいけど、滝に会えなくなるのだけはどうしても…嫌だったんだ」

「それを長次に話してみたら、それは滝夜叉丸を好きだからだろう…って言われてな…」

「ああ、そうか。私は滝が好きなんだって…気付いたんだ」

「きっと、ずっと前から…」

ダメだ…
そんな事を言われたら…望んでしまう…

「気付いたら、我慢できなかったんだ」

「滝が…滝に会えなくなった後、滝の横に誰がいるんだろうって…」

「私以外の誰かが滝の傍らになんて…どうしても我慢できない」

「滝の横には私がいたいんだ…」

先輩は先輩とも思えぬほどに優しく私の髪に触れ、そのまま肩を抱いた。
そして顔を私の肩に埋めて…囁く。





「滝を…私だけのものにしたいんだ」





ああ、この人は…
なぜ私が欲しいと望む言葉ばかりを口にするのだろう。

どれだけ望んでも決して手に入らないと、そう思っていた言葉を…


つ…と、頬に雫が走った。
その雫が先輩の頬にも伝わったのだろう、埋めた顔はそのままで…

「滝、泣いてるの…?」

「ごめんな、私がいきなり変な事言ったから…」

「っ…違います!!」

思わず声をあらげてしまった。
先輩は…変わらず顔を埋めたままなので表情を伺う事はできないが、少し驚いたようだ。たぶん。

「私は…嬉しいん…です。嬉しくて嬉しくてたまらないんです…」

おずおずと先輩の大きな背に手を回せば…

「…滝?」

と呼ばれた。
相変わらずの体勢で、先輩が口を開くたびに首にかかる吐息が、くすぐったくも心地よく…

「先輩が…私を好きだとおっしゃってくれた事…」

「私と同じ事を思っていて下さった事…」」

「…絶対に叶わぬ夢だと思って諦めて…諦めようとしてたのに…」



「今日…叶ってしまいました」



漸く私の肩から離れた先輩。
私を見つめていたその顔に、満面の笑みでそう言うと…

「ぅわっぷ!!?」

顔ごと抱きすくめられ、変な声を出してしまった。

「…滝。反則だ…」

先輩らしからぬ弱々しく…優しい声。
それがとても愛しくて…

「…先輩、覚えていますか?私と先輩が初めて会った日の事…」

「…ああ」

「私はあの時あなたに憧れ、あなたのようになりたいと…そう思いました」

「…」

「体育委員会へ入って、近くであなたを見て、あなたのように…は無理だと思…」

「何で?」

小首を傾げながら顔を覗き込んでくる先輩はいつもの先輩で、それにまた胸が高鳴る。

「…先輩と私では違いすぎたからです!」

「ふーん」

人が真面目に話してるのに…この人は!
しかも、自分で話を遮っておいて、それで?と続きを催促してくる…さすが暴君。
そうは言いつつも、私の額に自分の額を押し当て、じゃれつき甘えてくるような仕草に、全てが許せてしまう。
これが惚れた弱みというものか…。

「あなたのようにはなれないと思った時、ならばせめて…支えになりたいと…思いました…」

「…」

「どんな些細な事でもいい、あなたに頼ってもらえるようにと日々の努力は惜しみませんでした。…ご存知無かったでしょう?そんな理由で私は学年トップの成績をとり続けていたんです」

バカらしいでしょう?と自嘲気味に言うと…

「かわいいよ…」

と、額に口付けをされた。
瞬間、顔が燃えるように熱くなる。
たぶん顔は真っ赤であろう…。
恥ずかしさのあまり、先輩をぐいっと押しのける。
先輩は不服そうに口を尖らせるがそのまま話を再開した。

「…せ、先輩は私を先輩だけのものに…とおっしゃいましたが…」

「…うん」

「私は…先輩に初めて会ったその日から、先輩の事だけを想い、行動してきました…」

「…」

「ですので…先輩がそうおっしゃらなくても…私は…」

ふう…















「私のすべてはあなたのものです」















終わる…!





*******************

長いうえに中身がぺらい…orz

最後の滝の台詞を言わせたいがための話でした。
なんでこんなに長くなったんだか…。

この後滝はものすごいぎゅー!ってされます。そこら中にちゅーもされます。そこら中に…ね。
(ここ大事!中間出るよ!!)

全身全霊でこへを想って生きてる滝…よくないですか??
ずっとこへを想って努力してきた滝だから、こへに言われなくても滝はこへのものなんだ!
と思ったわけですよ。


長ったらしい話を最後まで読んで頂き、ありがとうございました★

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ