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□たけくらべ
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俺は滝夜叉丸が好きだ。
最近自覚した。
こないだいつもの様に滝夜叉丸の愚痴を作兵衛に聞いてもらってたら…
「いい加減自覚してくれ…」
って心底疲れきった表情で言ってくるもんだから「なにを?」と説明を求めて言い聞かされた説明でようやく自覚したってわけだ。
自覚したはいいけど、滝夜叉丸は俺なんか目にしちゃいない。
滝夜叉丸は…七松先輩が好きなんだ。
その事は、俺が自分の滝夜叉丸への好意に気づくずっと前から知っていた。
無自覚にでも滝夜叉丸を好きだったからそういう事には敏感だったんだろう。って作兵衛が言ってた。
成る程なと思う。
滝夜叉丸は七松先輩に想いを告げるような事はしていないらしい。
滝夜叉丸が七松先輩を好きだと知ってるから、俺も滝夜叉丸に告白なんてしないけど。
もともと仲が悪い学年同士だし。
そうこうしてる間に六年生の卒業の日が来た。
在校生は皆泣いていた。
五年生は流石に涙は見せなかったけど、やっぱり寂しそうだった。
滝夜叉丸も泣いていた。
きっと七松先輩を想って泣いていたんだろう。
俺は…委員会での地獄を思い出してそれから解放される嬉しさもあったけど、やっぱり寂しいから…ちょっと泣けた。
式が終わって六年生が各々学園を去って行く。
最後の挨拶とばかりに六年生に会いに行った下級生の泣き声があちこちで聞こえた。
俺は長屋へ向かおうと中庭を歩いていた。
すると見知った気配がして思わず隠れた。
七松先輩と…滝夜叉丸だ。
真剣で顔を真っ赤にした滝夜叉丸。
想いを告げてるんだろうと一目でわかった。
少しして、滝夜叉丸が泣き出した。
嬉し泣きには見えない。
振られてしまったのだろう。
泣きじゃくる滝夜叉丸を見て可哀相だと思った。
滝夜叉丸が七松先輩に振られて俺にもチャンスが巡って来たのだから喜ぶ所なのかもしれないけど、辛そうに泣く滝夜叉丸を見たらそんな考えは浮かばなかった。
ずっとその場にいるのもあれだったので、俺は来た道を帰って行った。
あてもなくぶらぶらと、二人がいた場所からはかなり遠ざかっていた。
特に考え事をするでもなかったけど、滝夜叉丸の泣き顔が頭から離れなかった。
「三之助っ!」
名前を呼ばれたかと思うと近くの長屋の屋根から人が…いや、七松先輩が飛び降りて来た。
「七松…先輩」
さっきの事を思うと何だか気まずくて目を合わせづらい。
しかし先輩はニカッと笑って…
「さっき、見てただろ?」
と言ってきた。
ばれていた。
六年生の…七松先輩の実力を考えればまあ当然か。
すみませんと謝れば…
「ん?いや怒ってるわけじゃないんだ。私達があそこで勝手に話してただけだしな」
そう言う先輩。
じゃあ何故俺を追いかけてきたのか?と、俺は素直に聞いた。
「実はな、三之助に頼みがあって来たんだ」
「頼み?」
首を傾げる俺にまたニカッと笑う先輩。
「三之助は滝夜叉丸が好きだろう?」
「!!!!!」
いきなりの事に驚いてテンパる。
しらばっくれようとしてもうまく口が回らない。
そんな俺に、いやーお前の態度分かりやすかったからなぁ。なんて言ってくれる先輩。
ああそうですか…。
否定するのも馬鹿らしく思えたから、そうですが何か?と言ってやった。
たぶん俺の顔は真っ赤だろう。
「滝夜叉丸はかわいい後輩だ。だがそういう目では見れないから断ってしまった」
「…」
「でもな、泣いてる滝夜叉丸を見るのも忍びないから…三之助、泣き止ませてくれ!」
「……はぁ?」
七松先輩の突飛な発言はいつもの事だったけど、今回のはかなりぶっ飛んだ内容だった。
「な…何で俺が!?」
「あれ?滝夜叉丸の事好きなんだろ?」
「いやっ…それはそうですけどっ…!」
逆に何で?と顔を覗き込まれる。
何でこっちが質問されなきゃいけないんだ!
ってかそもそもそれが何の関係があるって言うんだ…!
イマイチ理解してない俺に先輩は続けた。
「私では泣き止ませてやれないが、滝夜叉丸の事を好きなお前ならきっと大丈夫だ!」
「いやあの…俺なんかに慰められても逆効果だと思いますが…」
「なんで?」
また首を傾げる先輩。
全くこの人は…!
「あいつは…俺の事嫌いじゃないですか」
言ってて落ち込む事を言わせないでくれ…
「そんなわけないだろう!何だかんだ言ってても、滝夜叉丸はお前の事結構好きだぞ」
耳を疑った。
固まる俺に先輩は…
「滝夜叉丸もわかりやすいしな。気づかなかったのか?バッカだなぁー!」
そう言って背中をバシバシ叩いてきた。
背骨が折れるかと思った…。
「じゃあ滝夜叉丸を頼んだぞ!」
話が落ち着くと、先輩はそう言って去って行った。
今まで散々振り回されて迷惑かけられてばっかりだったけど、いざという時は頼もしくて意外に気配りの利く先輩。
この人の様になりたいと、どれだけ思ったかわからない。
滝夜叉丸の事を知った時も七松先輩相手なら無理もない、と納得してしまう程だった。
そんな先輩からの最後の頼み、聞かないわけにはいかないじゃないか。
大きく深呼吸して、俺は滝夜叉丸の元へと向かった。
滝夜叉丸はさっきの場所でまだ泣いていた。
「先輩」
後ろから声をかけると心底驚いたのかビクッとして慌てて涙を拭う。
「な、なんだ三之助か…私に気づかれず背後を取るとはなかなかやるじゃないか!」
振り向いた滝夜叉丸はいつものように上からな態度だったけど、目の赤さは隠せてなかった。
あーだこーだと自慢話を交えながら語る滝夜叉丸。
普通なら鬱陶しいと思う所なんだろうけど、馬鹿でかわいいなんて思う俺は相当きてるなぁとぼんやり思った。
いつまでたっても終わる気配の無い滝夜叉丸の話。
腹を決めて滝夜叉丸の肩を掴み中断させた。
「ん?どうした…」
「好きです」
言った。
言った瞬間あの滝夜叉丸が固まった。
凄いな、俺。
「前から好きでした。先輩の事が好きなんです。つき合って下さい」
まだまだ固まってる滝夜叉丸。
「先輩?」
と声をかければ漸く状況が飲み込めたらしく、みるみる顔が赤くなる。
おお、耳まで真っ赤だ。
目線を下げた滝夜叉丸の顔を覗き込むと…
「そっ…」
「そ?」
「そんな事はっ………!私より背が高くなってから言えっ!!!」
俺の頭をグーでどついて逃げて行った。
あまりの痛さに涙が出た。
でも…
「背が高くなったらいいのか…?」
さっきの滝夜叉丸の表情を思い出し、にやけが止まらなかった。
今でも俺と滝夜叉丸の身長はそう変わらない。
むしろここ最近伸び続けているのは俺の方だ。
放っておいてもそのうち追い抜くだろうけど早く伸びるように…
「牛乳と小魚かな…」
その日から毎日牛乳飲んで小魚を食べた。
(先輩、俺が先輩より身長高くなったら付き合ってくれるんですよね?)
(し、知らんっ…!)
(あれー?嘘つきはよくないですよ)
(うるさいっ!!!高くなってから言えっ…!)
新学期が始まって三ヶ月。
俺は滝夜叉丸の身長を超した。
「さーて、約束守ってもらいに行くか」
* * * * *
次滝が好きだ。