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□たまご達のクリスマス
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師走も中頃のある日。

毎度お馴染み、一年は組の仲良しトリオは長屋の庭を歩いていた。
相撲だ!かくれんぼだ!と、何で遊ぶかについて語りながら。

そんな中…



「ん?…お、おい。アレ見ろよ…」



きり丸に言われて指差された方を見れば…



「うわぁ…」

「ぶ…不気味っ!」



残る二人は引き攣った顔でそう零す。

きり丸が指差した先にいたのは一年ろ組の面々で、長屋の隅でいつもの日影ぼっこをしているかと思いきや、笑い声が聞こえるのである。
笑っているのだからいい光景の様であるが、そこは一年ろ組。
斜どう先生譲りのどんより空気はそのままに笑いが加味されたので、不気味な事この上ない。
しかしいつになく楽しそうなろ組に、は組トリオも興味が湧く。



「おーい、伏木蔵ー」

「あ、乱太郎ー。きり丸としんべヱも」

「何やってるの?」

「あのねー、怪士丸が面白い本を借りてきたからみんなで見てるんだ」

「面白い本?」



そう聞き返してみんなの中心にいた怪士丸を見れば、色とりどりの絵が描かれた大きな本を持っていた。
おそらく南蛮の本だろう。



「あ、それってこないだ入ったばっかの新刊じゃん」

「そうだよ。中在家先輩にお願いして一番に貸してもらったんだ」

「南蛮の本だね。どんなお話なの?」



きり丸と怪士丸の図書委員トークに、待ち切れない様子の乱太郎が加わる。
あのね、と口を開く怪士丸はいつもと違って目が輝いている。



「これはね、クリスマスの本なんだ」

「「「くりすます???」」」



聞き慣れない言葉に、は組トリオは揃って首を捻る。



「クリスマスっていうのは、キリスト教の救世主の誕生日をお祝いする日なんだ」

「へぇ〜…それが楽しいの?」

「他人の誕生日の話なんてっ…聞いても無駄じゃんかよっ!!」

「誕生日のご馳走の話???」



あまり興味の持てなさそうな内容に三者三様の反応。



「あはは。僕たちとおんなじ事言ってる」

「それだけじゃ楽しくないけど。ね、怪士丸っ」



平太と孫次郎がそう言えば、怪士丸は本を開いて…ある絵を見せる。



「これ見て」

「ハデな格好したおじいさん…??」

「うん。サンタクロースって言うんだけどね、クリスマスの前の夜にやってきて、プレゼントをくれるんだ」



プレゼント…と聞いたきり丸の目がゼニ目に、耳はダンボの耳になる。



「タダで!!???」

「う、うん…」

「きりちゃん…」



全員が呆れ顔だ。

その後もクリスマスについて色々と教えてもらうは組トリオ。
サンタクロースはトナカイの引く空飛ぶソリでやってくるとか、煙突から入って来るとか、良い子の所にしか来ないとか。
いつの間にか揃っていたは組メンバーも、聞いた事のないクリスマスという不思議なものにどんどん心を奪われる。



「サンタクロースはメリヤス(靴下)にプレゼントを入れるの??」

「そうみたい。それでね、僕たちは大きなメリヤスを用意しようと思ってるんだ」

「あ、それいいね!よーし!僕たちも大きなメリヤス用意しよー!!」

「「「おー!!!!!」」」



庄左エ門の掛け声に、ろ組も混じっておー!と叫ぶ。

しかし…



「はははっ!ばっかだなぁ〜」

「サンタクロース?そんなもんいるわけないだろ」



どこで聞いていたのか、い組の伝七と佐吉が現れる。



「何だよお前等〜!」



出て来た途端に厭味を言う二人に、すぐさま口を尖らせたきり丸が言葉を返す。



「いやいや、あんまりにもバカバカしい話が聞こえてきたもんだからさ」

「なんだとー!!」



団蔵も食ってかかる。



「だって、普通に考えているわけないだろ?空飛んでプレゼント持ってくるおじいさんなんて」

「もし仮にいたとして、何で今まで僕たちの所に来なかったんだと思う?」

「…南蛮の人だから…日本に来たことがなかったんだよきっと…」



平太が必死に反論するも…



「へぇ〜空を飛べるのに?船よりよっぽど速そうなのにね」

「だから元々いないんだよ。そんなの信じるなんてさすがアホのは組…っと、ろ組もか」



さらに嫌味で返される。
すると…



「うっ…うるさーい!!!二人には関係無いだろっ!邪魔しないでよっっ!!!」



怪士丸が怒鳴った。
いつもが大人しい為、たまに怒った時の威力はすごい。
全員が全員目を丸くする。



「…そ、そうだぞ!お前らなんかサンタクロースが来たってどうせプレゼントもらえっこないんだから関係無いだろ!!」

「…っ何だと〜!」



きり丸が続けざまにそう言えば睨んでくる佐吉。
さらに…



「そーだそーだ!!サンタクロースは悪い子にはプレゼント持って来ないんだぞ!!」

「伝七と佐吉みたいな悪い子の所には絶対サンタクロース来ないんだからねー!!」

「「「そーだそーだ!!」」」



兵太夫、喜三太に続き、全員からそーだ!の大合唱。
すると、たまり兼ねた伝七が…



「だ…黙れよっ!!!」



と、正面にいた怪士丸の肩をドンと押す。
はずみで怪士丸が尻餅をつく。



「…やったなー!!」



押された怪士丸が伝七に掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩が始まる。










「あ〜あ、明日テストとかかったるいなー…」

「どうせまた授業中居眠りでもしてて自信無いんだろ?」

「うっせ兵助っ!…最近は寝て無いっての!それ以前に俺は座学全般苦手なんだよ!!実技のテストだったらなー…」

「その気持ちわかるなぁ」

「勘右衛門もか…!だよなー…」

「竹谷最近座学の成績上がってるじゃない」

「それでも嫌なもんは嫌だ!雷蔵は?」

「僕?僕は今回ちょっと自信あるんだー」

「へぇ…んじゃ私と賭けをしないか?」

「三郎も自信あり?いいよ、何賭ける?」



してやったりな表情の三郎。
やめとけよ雷蔵…と、言いたくても言えない竹谷と兵助と勘右衛門。



「こないだ食べた美味しいお饅頭とか…あ!街に新しく出来た蕎麦屋でおごるとかどう??」

「そうだな…それもいいけど…」



(三郎の考えてる事が手に取るようにわかる…)
(ああ…)
(ホント…)

他の三人が心で会話をする間にも三郎の顔はいやらしく歪んでいき…



「勝った者が負けた者に一晩…」



と言いかけた時には酷い有様だった。
が、そこまで言いかけた言葉は何処からともなく聞こえてきた喚き声によって中断される。



「やったなこのー!!!!」

「そっちこそ!!!!!」

「やめなよ二人ともー…!!!」



どうやら誰かが喧嘩しているらしい。
声からすると低学年…おそらく一年生だろう。
しかも、他にもワーワーと声が聞こえる事から複数人で大喧嘩している様子。
五年生である自分達がそれを放っておく訳にはいかない。
真っ先に止めに入ったのは雷蔵。
それに竹谷、兵助、勘右衛門と続き最後に…話を聞いてもらえずにがっくりとした三郎が仲裁に入る。



「こらこらー!喧嘩はダメだよ…って怪士丸っ!?」



てっきりい組とは組の喧嘩だと思っていた雷蔵は渦中の人物が怪士丸だと気づき目を丸くする。



「やっ…!離して下さいっ!!伝七が…伝七と佐吉が悪いんです…!!!」

「僕らは本当の事を言っただけだっ!!」

「ほらほら、お前も落ち着けって!」



まだ怪士丸につかみ掛かろうとする伝七を背後から竹谷が押さえ付ける。



「お前達も、こんだけ人数いるんだから止めなきゃダメだろ?」



二人を取り巻いていた一年生を見て兵助が窘める。



「そうだぞ、ケガしたらどうするんだ」



と勘右衛門も加わる。
が…



「でも本当にあの二人が悪いんですよ!」

「そうですよ!先に手を出したのだって伝七だし!!」

「「「そーだそーだ!!」」」



またもそーだ!の大合唱。



「お前達がそうやって全員で言うからだろっ!」

「言われるような事する方が悪いんだよっ!!」

「何だとー!!」

「やるかー!?」



こちらはこちらで取っ組み合い寸前の佐吉と金吾。
互いに飛び掛かろうとした瞬間…二人の体が宙に浮く。



「こぉーら。ダメだって言ってる側から喧嘩すんな!」



三郎が二人の首根っこを掴んで持ち上げたのだ。
だがしかし…その状況でもじたばたと相手に食ってかかろうとする二人に三郎が一言。



「お前達…いい加減にしとかないと、伝子さんの顔にして…戻せなくするぞ?」



と、黒ーい笑顔で言ったもんだから二人は…



「「ご…ごめんなさい…」」



顔面蒼白で素直に謝った。



「分かればいいんだ♪」



そう言って三郎は、にっこり笑って二人を降ろしてやる。
降ろされた二人はしばらく固まったままだった。



「雷蔵ー、こっちは治まったぞー。そっちはどうだ?」

「あ、三郎。いや、どっちも引かなくてね。何があったか分からないけど、怪士丸がこんなに怒るなんて…」



確かに。
一年ろ組といえばおとなしくて有名なクラスである。
自ら喧嘩をふっかける事はもちろん、買う事だってめったに無いようなよい子達だ。(忍としては今ひとつ覇気が無いような気もするが)
そんなろ組の怪士丸がこれだけ怒り心頭なのだから、少なくとも怪士丸にとっては余程重要な出来事だったようだ。
それは五人もよく分かった。
それを踏まえた上で第三者に話を聞いてみる。



「よし、乱太郎。何があったか説明してくれ」

「は、はい!えーっとですね…」



三郎に説明を求められた乱太郎は今までのいきさつを話出した。






「…と、いうわけです」



乱太郎が話終える。



「ふーん」

「まあ…」

「「どっちもどっちだな」」

「ちょ、ちょっと…!!」

「てきとーすぎるぞお前等!」

「あはは…」



三郎と兵助のあんまりな言い草に、雷蔵と竹谷が抗議の声を上げ、勘右衛門は苦笑いを浮かべる。



「何がてきとーなものか!なぁ兵助」

「ああ。至極正論を言ったまでだ」

「だからって相手は一年生なんだから…!」

「まあ、二人の気持ちも分かんなくもないけどさ…」

「もっとこう…やんわり言えないのかお前等は…!」

「やんわり…だって、兵助」

「俺任せかよ…まったく…」



そう三郎に促されると、呆れてため息をつきながらも怪士丸、伝七を含めた一年生に向かって話し出す。



「まず、誰が何しようが周りに迷惑をかけないなら他人がとやかく言うことじゃない。怪士丸達がクリスマスってのをやる事でお前達に迷惑がかかるのか?」

「…いいえ」

「なら、それについてはお前達が悪い。だが伝七達の言うことも間違ってはいない」

「…っ何でですか!?勝手に話を聞いてバカにして突っ掛かって来たんですよ!??」



伝七、佐吉を肯定するような言い方に怪士丸が声を荒げるが…



「まあ聞けって」



三郎に頭をポンポンとされながらそう言われ、しぶしぶ引き下がる。



「ここは忍術学園で俺達は忍たまだ。忍術は科学…、と誰かが言ってた様に忍は現実主義でなくてはならない。それなのにお前達はクリスマスと言うものにのめり込んでいる。本当にサンタクロースという人物がいるかどうかはともかく、空飛ぶトナカイというのはどう考えても非現実的だ」



兵助の説明に皆口をつぐむ。



「まあ…言い方に問題があるとはいえ、的を得た意見だということだ」



そう言われてしまえば何も言えずに俯くしかない。



「…さぁ!もう晩御飯の時間だから今日はこのくらいにして食堂へ行こう!!」

「そうだなっ…!早くしないと定食なくなっちまうぞ!!」

「晩御飯っ!定食っっ!!!急がなくっちゃー!!!!!」



雷蔵と竹谷に促され、真っ先に食堂へ向かったのはしんべヱ。
その口にはすでにヨダレが溢れている。



「し、しんべヱっ…待って!」

「僕も定食食べたーい!!」



僕も僕もと次々に食堂へと走って行く一年生。



「怪士丸ー…僕達も行こう?」

「…うん」



伏木蔵に促され、俯いたまま怪士丸も食堂へと向かった。










続く

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