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□届け届け
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※小学校〜大学までの一貫校の中学三年生と高校三年生




















ここは運動場の片隅にある手洗い場。
休憩時間の部活の生徒が集まって来る。



「なぁお前らのどっちか、今度の日曜空いてねぇ?」

「「はぁ?」」



と、ハモって答えたのは中等部三年B組の次屋三之助と神崎左門の迷コンビ。
問いただしたのは同じく三年B組の富松作兵衛である。



「新聞屋から水族館のチケットもらったからさ、誰か一緒に行かないかと思って…」

「ふーん…」

「そういう事なら…」



作兵衛の言葉に顔を見合わせた二人は…



「「食満せんぱーーーいっ!作兵衛が話あるみたいですよっ!!!」」



高等部の運動場にいた食満留三郎に向かって思いっきり叫んだ。



「おっ…お前らぁあああっ!!!!!」




















【届け届け】




















そして次の日曜日…

作兵衛は駅前にある犬の銅像の前で人を待っていた。
この銅像、何でも大昔に飼い主と共に幾田の仕事とという戦場をくぐり抜けた名犬らしく、その功を讃えて立てられた…にしては、二足歩行で立ってるし、ほっかむり被ってるし、犬の名前も鳴き声から取ったとか言って『ヘムヘム』だし…胡散臭い銅像である。
それはさておき、作兵衛は緊張していた。
なぜなら待ち合わせている人物というのが、高等部の先輩…食満留三郎だからである。
先輩というだけならこんなに緊張しないのだろうが…作兵衛は留三郎が好きだった。

好きと気がついたのは三年になって間もなくで、当初は「んなバカな…!」「ないない!」「どうしてだー…!!!」と自問自答を繰り返していたのだが、ある日我慢の限界が来て同じクラスのあの二人に打ち明けてみたところ…



「別にいいんじゃね?」

「食満先輩、優しくてかっこいいからなっ!」



と思いのほかあっさりと受け入れてくれただけでなく応援までしてくれるらしい二人に感謝し、心のもやもやが晴れた作兵衛は密かに留三郎に恋心を寄せていたのである。
まあ、応援といいながらからかってるだけのようでもあったが…今回もその延長線上みたいなものだった。
それでも、留三郎と出掛けられるなんて夢みたいで…あいつらっ!!と思いつつも若干感謝している作兵衛であった。
実際問題、二人の声に近づいてきた留三郎に事情を話しても一緒に行ってくれる訳がないと思っていたのだが、予想外に答えはYES。

(いやいやいや、そんな訳ない…!きっとあいつらとぐるになって…そう、ドッキリ企画に違いないっっ!!!)

なんて持ち前の妄想力を発揮し、あることないこと考えながら本日を迎えたのだった。

今も留三郎を待ちながらそんな事を考え…



「絶対ぐるだ…ドッキリだ…あれは夢だったんだきっと…」



とぶつぶつ呟いていた。
すると…



「何がドッキリなんだ??」



留三郎が首を傾げながら目の前に立っていた。



「けけけっ…食満先輩っ!!」

「悪いっ、待たせたな」

「い、いえっ!俺もさっき来たところですからっ!!」

「そっか」



ニコッと笑う留三郎に…

(夢じゃなかった…神様仏様左門に三之助、ありがとうっ!!!)

そう思わずにはいられなかった。










水族館の最寄り駅へ向かう電車の中…



「今日行く水族館って二年前に出来たとこだよな?」

「そうっすよ。あ、行った事ありますか?」

「いや、水族館自体今日が初めてだ」

「え!?そうなんですか!??」

「ああ、だから今日は楽しみだったんだ。よろしく頼むな」

「は、はいっ!案内任せて下さいっ!」



まさかの留三郎が水族館初体験で…

(よしっ!上手く案内して好感度アップだ!!)

内心ガッツポーズの作兵衛であった。










「―――で、こっちの水槽にはサメがいるんですよ」

「サメって…他の魚と一緒で大丈夫なのか??」

「腹が減ってなきゃ襲いませんよ。定期的にエサを与えてるから大丈夫なんです」

「へー、そうなのか。作兵衛は何でも知ってるなぁ」



そう言いニッコリと微笑みかけて来る留三郎に…

(かっ…かわいいぃぃぃ!!!先輩の笑顔は反則だってのっ!あぁ…俺、水族館好きでホントよかった…)

心で叫びつつエスコートを続ける。



「あ、先輩。まだちょっとありますけどペンギンショーの方行きますか?」

「ペンギンショー!?なんだその楽しそうなのっ!!」



目が輝いてあからさまにワクワクしている留三郎。

(そんな顔っ…しないで下さいっ!!!かわいすぎるっ…!!!!!)

叫びかけたものをぐっと堪え…



「ペンギンの他にイルカやアシカも出ますよ」



極めて冷静に返答した。
が…



「イルカとアシカまでっ!!!行こうっ作兵衛っ!!」



さらに表情を輝かせた留三郎にまたも叫びそうになる作兵衛。
これだから無自覚は困る…と某友人を思い出した。
そして歩き出した留三郎がはたと止まる。



「あ、さっき自販機あったよな。喉渇いたから何か買って来るわ。作兵衛は何がいい?奢るぞ」

「えぇっ!?そんな悪いっすよ…!!俺は結構で…」

「気にすんなって、今日連れて来てもらったお礼だ。案内も説明もしてもらったしな」

「え、あ…じゃあファンタで…」

「ファンタな、じゃあこの辺で待っててくれ」



留三郎は嬉しそうに笑いながら作兵衛の頭をくしゃくしゃと撫で、自販機へと歩いて行った。
残された作兵衛は撫でられた頭に手をやる。
決して優しくは無い留三郎の撫で撫で。
されると頭がごわごわして、なんだかちょっぴりあったかくなる。

(はぁ…先輩に撫でられんのはきらいじゃないけど、まだまだ子供扱いされてるよなぁ…。でも、説明とか喜んで聞いてくれてたし、今日のとこはこれでよしとしとこう!)
自分に言い聞かせる作兵衛。
すると留三郎の向かった方向とは逆から何やら騒がしい声が聞こえてきた。



「ったくどこ見ても魚、魚…つまんねーなぁ」

「だから水族館なんだろ。ほらでっけー魚」

「キショッ!!!こっち来てんじゃねーよ!!キショいんだよっ!!!」



ガラの悪そうな高校生くらいであろう若者…茶髪と鼻ピと野球帽という特徴の三人が大声で喚き散らしながら水槽をドンドン叩いている。
回りに人はいるが、彼等を怖がってその場から離れて行く。

(何だあいつら…ガラ悪りぃな…誰か係員呼んだのか?)

少ししても係員が来る気配は無い。
その間にも三人の行動はエスカレートして行き…



「つっまんねーなー、くそっ!!」

「てかさ、魚見せるだけであの入場料って高くね?」

「マジだって…魚見せるだけなら魚屋行きゃあいくらだっているっての!」

「オラッ!金払ったんだからなんか芸して見せろっ!!!」

「出来なきゃ刺身にしちまうぞー」

「そりゃいいな」



そう言い、笑いながらドンドンと水槽を叩く三人。
叩く力は強くなる一方で…
ドンドンドンドンドンドンドンドン…。



「やめろっ!!」



気がついたら叫んでいた作兵衛。
回りの人々、三人の若者はもちろん、自分でも驚くくらいの大声だった。



「水槽叩くんじゃねぇよ」

「はぁ?」

「魚が驚くだろが」



睨みつける作兵衛の言葉に不満げに声を漏らす鼻ピの男。
そして…



「ははっ!魚が驚くだってよ。バカじゃねぇ?コイツ」

「何の芸もしねぇこいつらがワリーんだろが。俺らは金払ったんだぜ?」



野球帽と茶髪も悪びれた様子は無い。



「金払ったからって何してもいいなんてあるわけねぇだろ!普段水中で生きてる生物を色んな角度から見て楽しむのが水族館だ。それが理解できねぇような幼稚な奴らはさっさと帰りやがれっ!!!」



ありったけの怒気を込めた作兵衛の主張に回りからはそうだそうだ!と共感の声が沸き起こる。
が…



「うるっせぇえっ!!!!!」



鼻ピの怒号に場は静まる。



「うるせぇんだよ、このチビがっ!」

「大層な御託並べちゃって…ウザっ」

「そんなに魚が大事かよ。おーい魚達ー、このチビが君達の事ラブだってさー!!」



そう言って野球帽がまた水槽をドンドン叩く。
たまらず叩く腕を掴んだ作兵衛だったが…



「触ってんじゃねぇよっ!!!」



と、思い切り払いのけられた。
尻餅をつきながらも睨み上げ、また向かって来ようとする作兵衛に…



「…なんだぁ?その目」

「ホントこーいう奴ってウザいわぁ…」

「イキがってんじゃねえぞチビがぁっ!!」



鼻ピの男が作兵衛に殴り掛かる。
立ち上がる途中で避けられないと思った作兵衛は、衝撃に備え歯を食いしばって目を閉じる…が、衝撃は来なかった。
不思議に思い目を開けて見ると…鼻ピの腕を掴んで睨みつけている留三郎がいた。



「いい年してガキみてぇな事してんじゃねぇよ…」

「なんっ…だ、てめぇっ!!!」

「こいつのツレだよ」

「せ、先輩っ…!」



不安そうに申し訳なさそうに見上げてくる作兵衛に留三郎は…



「大丈夫か?お前は何も間違った事してないんだからもっと堂々としてろよ」



試合の最中に見せる楽しげな笑みを向けてきた。
作兵衛がぱぁぁっと表情を明るくさせ、はいっ!と返事をした瞬間…



「は、なせよっ…!ナメんなっ!!!」



掴まれていない左手で留三郎に殴り掛かる鼻ピの男。
留三郎が掴んでいた右手を軽く引き寄せると、鼻ピはバランスを崩して前のめりになる。
そこを逃さず鼻ピの腹に膝蹴りを打ち込むと…ゴホッ!と呻きながら腹を押さえてうずくまった。



「てめぇっ…!」

「よくもっ!!!」



すかさず襲い掛かってくる残りの二人。
留三郎は、先に来た茶髪に足払いをかけて転倒させ、蹴り込んでくる野球帽の足を内側に払い、そのまま踏み込んで鼻の下を軽く小突いてやった。
全員もれなく膝をついているその状況に…



「まだやるか?」



と留三郎が問うと、くそっ…!と舌打ちをしながらそそくさと逃げて行った。
観衆からは拍手が起こり、感嘆の声が二人を包んだ。
何だか照れ臭い状況に耐え兼ねて人のいない場所まで移動した作兵衛と留三郎。



「あ、あの…先輩っ。す、すみませんでしたっ…!」



威勢よく突っ掛かったものの、留三郎に助けてもらったのがやはり不甲斐無く思えて謝る作兵衛。
しかし留三郎は…



「何で謝るんだ?さっきも言ったろ、お前は何も間違った事してないんだからって」

「で、でも結局は先輩に助けてもらったし…」

「先輩が後輩助けんのは当然だろ?あいつらのがでかいし人数もいたんだから仕方ないって」

「でも…」

「そのうちあいつらなんて目じゃないくらい強くなるって、作兵衛なら。それまではまだ俺に護らせてくれよ、な?」



優しく、それでいてちょっと悪戯っぽく微笑み作兵衛の頭をポンと撫でた留三郎。
男らしい腕っ節、皆から慕われるその優しさ、憧れ続けた留三郎の器の大きさを再確認した作兵衛。

(ああ…まだまだ先輩にゃかなわねえな…。もっとかっこいい所見せたかったのに…)

そう思いながらもその笑顔につられて笑ってしまう。
すると…



「でも、あいつらに向かって行った時の作兵衛、かっこよかったぞ。俺にはあんなかっこいい事言えないしな」



満面の笑みで爆弾を投下された。

(は………反則すぎるだろっ!!!何で言って欲しい言葉をさらっと口にするかなこの人はっ…!!!かかか、かっこいいとかっ…!!!!!)

不意の爆弾投下に真っ赤になってショートした作兵衛。
それを気にするでもなく…



「あ!ペンギンショーってもうすぐなんじゃないか!!?」

「そ、そうっすね…」

「早く行かないといい席で見れないっ…!」

「そ、そうっすね…」



ペンギンショーが気になる様子の留三郎。
頭の働いていない作兵衛。



「行くぞ、作っ!!!」



そう言うと作兵衛の手と自分の手をしっかりと繋ぎ、駆け出した留三郎。
はっと我に帰った作兵衛であったが…

(ててて…手ぇ繋いでるっ!!?まだ告白もしてないのにっ…!!!え、夢?今日の全部夢だったとか…???)

予想外の出来事に若干頭が混乱しているようだった。

その後もペンギンショーにておおよそ先輩とは思えぬはしゃぎっぷりを見せる留三郎に、作兵衛が内心K.O!されたのは火を見るよりも明らかである。





(あぁもうっ!かわいすぎっす先輩っ…!!!くそっ…!早く先輩に釣り合う男にならなくちゃ…!!)

(案内してくれてた時もそうだけど、作兵衛って…頼りがいあってかっこいい、な…)





二人の思いが通じ合うのはそう遠い話でもなさそうだ。










* * * * *

二人はバスケットボール部とかだったらいい。

ファンタは留三郎が暴れたせいで開けた瞬間爆発しました。
びったびたの作兵衛見て腹かかえて笑う留三郎。
こんにゃろう…と思いつつも留三郎の事がかわいい作兵衛。
うん、とまけまいいね!


*食満受け同士のゆくとさんに捧げます



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