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□似た者同士
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ぽかぽかと暖かいとある日の、六年忍たま長屋の縁側に集まるは、相も変わらぬ六人組。

やるか!やらいでか!!
と井戸の前で喧嘩を始めた二人を他所に、少し離れた木陰に腰を下ろし読書をする長次。
降り注ぐ木漏れ日がなんとも心地よさそうだ。

一方、縁側で寛ぐ伊作、小平太、仙蔵はひなたぼっこを決め込んだようである。



「うあーーー!!!気持ちいいな!!」

「だね。たまにはこんなのんびりも悪くない…ふぁ〜あ…」

「確かに。それにしても、あの馬鹿共はどうにかならんものかな…」

「こんなひなたぼっこ日和に喧嘩なんてねぇ…くぁ…眠いや」

仰向けで大の字になる小平太。
長屋の壁にもたれ掛かり、眠そうにあくびをくりかえす伊作。
縁側に腰掛け騒がしい二人をやれやれといった表情で見遣る仙蔵。



なんとも長閑な光景である。



しかし、いつもなら喧嘩をしている二人並に騒がしい筈の小平太が静かな事に気付いた仙蔵が、左後方の小平太へと顔を向け…

「どうした?小平太。やけに大人しいじゃないか」

と聞いてみる。
当の小平太は…

「んー?別に何でもないさ。のんびりしたい気分なんだ」

「いーいお天気だもんねー…」

両腕を枕にし、何の気無しに答える小平太に、半分寝ている伊作が相槌を打つ。
本当に何でもなさそうだと判断した仙蔵が…

「そうか」

と元の庭の方へ向き直ると、長く美しい髪がフワリと翻り小平太の視線がそれを捉え追うように起き上がる。

と同時に小平太の背後から気配が一つ。
気付いたのは仙蔵のみで、彼の髪に気を取られている小平太は気付かない。
伊作は…居眠りを始めたようだ。

気配に気付かぬ小平太が…

「私、好きだな。仙蔵のこと」

なんて事を言い出した。
背後の気配に緊張と動揺が感じられる。
いきなり何を言い出すのかと、多少驚く仙蔵。
本当に多少すぎて言われた本人よりも、背後の気配の方が驚いている。

それよりも、またおかしな事を言い出した小平太(彼が突拍子もない事を言い出すのは今に始まった事ではない)。
そのまま放っておいてもよかったのだが、気配の反応が気になり理由を聞いてみた。

意地の悪い事だ。

「私の事が?どうしてだ?」

そう聞いてやれば屈託のない笑顔で…

「えーだって、頭はいいし実技だってトップクラス!」

「つり目の色白美人」

「高飛車で我が儘だけど実は優しくて…」

「何より…」

小平太が仙蔵に近寄り、その美しい髪を手に取り顔を寄せる。

「この綺麗な髪…好きなんだ…」

背後の気配からは動揺が隠しきれず洩れていて…

「−−−−−−−−だろ?」

今の台詞を聞かずに去って行ったようだ。

「だから六年では仙蔵が好きかなー。あいつのがかわいいけどな!」

満面の笑みで言われたその台詞に多少イラッとしながらも…

「小平太」

「ん?」

「今さっき滝夜叉丸がそこから奥の方へ走って行ったぞ」

「え!?ホントか!??」

「そんな事で嘘などつかん。何やら…泣いていたように見えたが…」

仙蔵がそう言い終わらぬうちに駆け出した小平太。
やれやれ世話のやける…とその背を見送る仙蔵。

右後方にはヨダレを垂らして眠りこける伊作。
前方では未だにぎゃあぎゃあとうるさい文次郎と留三郎。
木陰で一人素知らぬ顔で読書にふける長次。
そして、愛しい恋人を追い掛けて行った小平太。



何と長閑な事だろう。



仙蔵も…
たまにはこんな日も悪くない、と寝転び、微笑を浮かべながらその目を閉じた。















「滝ー!滝夜叉丸ー!!」

「………っ!」

恋人である後輩の名前を呼びながら、その人物を追いかける小平太。
名前を呼ばれ追いかけられる滝夜叉丸の目からは涙が溢れていた。

「滝、どうしたんだ!?待てって!!」

待てと言われても待てる訳がない。
しかし相手はいけどん体育委員長、七松小平太。
あっという間に距離を詰められる。

無我夢中で走っていたため前方が行き止まりという事に気付かなかった滝夜叉丸。
すんでの所で止まると小平太も続いて止まる。

「ふぅ、やっと止まったな。どうしたんだ?」

「…」

返事はない。
その後ろ姿は心なしか震えているようだ。

「長屋に来てたんなら声かけてくれればよかったのに」

「…っ!」

またも返事はなく、震える体を押さえるように肩を抱き、嗚咽を漏らすまいと唇を噛み締めているようで…
いつまでたっても言葉を返す気も、こちらを向く気もない滝夜叉丸に痺れをきらせた小平太が話し掛ける。

「…本当にどうしたんだ?逃げるし…待たないし…泣いてるし…。私、何かした…」

「先輩はっ…!!立花先輩の事がお好きなんでしょう!?」

振り向き様に話を遮り、声を荒らげる滝夜叉丸に思わず目を丸くする小平太。
しかしすぐに元に戻ると…

「ああ、好きだぞ。それがどうした?」

悪びれもせず言い放った。

「…だったらっ!私の事なんか放っておけばいいじゃないですかっ!!!」

「なんでそうなるんだ?」

恋人からのあまりの言い草にまたも声を荒らげる滝夜叉丸だったが、小平太は心底不思議そうな顔で聞き返す。

「なんでって…だから…先輩は…立花先輩が…お好きなんでしょう…?」

「ああ」

「…頭がよくて実技もトップクラス」

「うん」

「つり目の色白美人…」

「そうそう」

「高飛車で我が儘…でも実は優しい…」

「うんうん」

「そして髪が…綺麗…」

「そこが大事だ!だって…」

なぜ愛しい人の口から他人への賛辞を聞かせられなければならないのか…
これ以上は耐えられない、聞きたくない…やめてくれ…と声に出そうとすると…



「だって、滝に似てるだろ?」



「………は?」



言われた事がすぐに理解できずに滝夜叉丸は固まった。
小平太は満面の笑みだ。

「え…?あの…それはどういう…」

「だからなっ!お前に似てるから仙蔵の事が好きなんだ」

ニコニコと笑う小平太をぽかんとした表情で見つめながら滝夜叉丸は考えた。

確かに自分は成績優秀、実技だっていつもトップクラス…つり目で、日焼けには…あの委員会という事もあり、誰よりも気を使っているだけあって確かに白い…高飛車で我が儘というのには納得しかねるが私は優しい。そして…



自慢の髪。



仙蔵への賛辞だとばかり思っていたそれが自分へのものだとわかった滝夜叉丸。

みるみる顔が赤くなっていく。

「どうした滝!?顔が真っ赤だぞ!??」

いきなり茹蛸状態になった滝夜叉丸の肩に手をかけようとした小平太だったが…

「…先輩の…バカッ!!!」

と言うなりまた駆け出してしまった滝夜叉丸。

「なんでまた逃げるんだ!??滝!待てって!!」

追いかけっこ第二弾の始まりだ。
しかしこの追いかけっこは長くは続かない。
何故なら逃げる側が本気でないから…

きっとすぐに捕まって…





(先輩は…いつもあんな事を他人に話しているんですか…)

(滝の事しか考えてないからな!)





なんて言っているに違いない。









終わる!


* * * * *

ぎゃあぎゃあとうるさい二人は、仙蔵様の「喧しい」の言葉と共に宝禄火矢で爆破されました。


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