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□今日も明日も君を思う
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迎えに…





行かなきゃ…





約束、したんだ…
























【今日も明日も君を思う】










「いた!」



学園の屋根に上り、私は人を探していた。
目当ての人物が視界に入ると私は勢いよく走り出し屋根から飛び降りた。



「滝夜叉丸みーっけ!!」



そう言いながら滝夜叉丸の背後に着地すると、驚いたのかビクッとして滝夜叉丸はこちらを振り返った。



「な、七松先輩っ…」



しかし、目が合うとまた後ろを向いてしまう。
一瞬合った滝夜叉丸の目は赤かった。



「何だ滝、お前はお別れしてくれないのか?体育委員会のみんなは泣きながらお別れしてくれたぞ」

「…て、しま…ら…です」

「ん?」

「泣いてっ…しま、う…からっ!!ですっ…」



みんなも泣いてたからいいんじゃないのか?と言ったら、上級生の自分が泣く事は出来ないと言われた。
そういうものなのかな?

少し落ち着いたのかやっとこっちを向いた滝夜叉丸。
視線を彷徨わせる目はやはり赤く、涙が滲んでいる。
するといきなりその目が私を捕らえる。



「先輩は…」

「何だ?」



滝夜叉丸はきっと怒るから言った事はないけど、真剣に私を見据えるその顔が堪らなくかわいい。
お前はいつも真剣だからいつもいつもかわいかったよ。



「先輩は…寂しくはないのですか?」

「寂しい?」

「そうですよ、こんな日だというのに…いつもと変わらず笑顔なんて…」

「卒業式はめでたい日だろう?立派に忍として旅立てるんだ!」

「………」

「滝?」



滝夜叉丸は私達は忍だから、もう二度と会えないかもしれないと言った。
私は漠然と…またみんなに会える気がしていて、それまでちょっとお別れだ!って感覚だったのだが、それを伝えたら…



「―…っ!恋人との今生の別れかもしれない時にっ、そんな不確かな憶測信じられるわけないでしょうっ!!」



と、怒られてしまった。
私の制服を掴み、俯いて額を私の胸に押し当ててくる滝夜叉丸。
泣いて…はいない、堪えてるらしい。



「じゃあ…こうしよう。二年後、滝が卒業する日に迎えに来るよ」



バッと私を見上げる滝夜叉丸。
驚いてる顔だ。



「え…、ほ、本当ですかっ?」

「ああ。そして一緒に暮らそう」

「………え?」

「これから滝に手紙を書くよ。出来るだけ、な。それで滝が六年になった時に、私の仕える城を教えよう」

「???」

「私と同じ城に就職しろよ、滝。そうすればそれからはずっと一緒だ」

「…は、はいっ!!」



不安げな顔から一気に溌剌とした表情に。
本当にお前の百面相はかわいいな。



「ただし…」

「な、何でしょうか…?」

「うちの城の忍者隊、入隊テスト難しいらしいから…滝に合格できるかな?」



ちょっと厭味っぽく言ってやったら…



「…馬鹿にしないで下さいっ!学園一成績優秀で実技も抜群な私にとってそんなテストの一つや二つ…首席で合格してみせますよ!いえ…むしろそちらの城からスカウトが来るくらいに腕を上げてみせますっ!!」



思った通りの答えが返ってきた。



「滝ならそう言うと思った。私もスカウトだった、待ってるぞ!」

「はいっ!!」



先程までの泣きそうな顔が嘘の様に朗らかな顔で笑う滝夜叉丸。
そっと抱き寄せて唇を重ねた。










二年後、必ず迎えに来るからな。

「約束ですよ」

そう言って笑った滝夜叉丸はとても嬉しそうだった。































「…っぐ!はぁっはぁっ…」



流石に手負いで敵を引き付けるのは無理があったか。
最初に右手を負傷したのがまずかった、録に攻撃できやしない。
あちこちの出血、加えてさっきの矢…毒矢だったみたいだな…。
足に力が入らなくなり、視界も霞んできた。
とりあえずさっきの敵は撒けた様なので、近くの茂みに倒れ込む様に入った。

密書は他の仲間が持っていたから大丈夫…これで我が国に危険が及ぶ事はない。
その仲間を庇って負傷したのだから、なかなかの武勲だな、なんて自虐の笑みが零れる。
しかし本当によかった…あいつが来る時には国は平和だ。
そう思ったら急に眠くなり瞼が勝手に降りてきた。










ぼやける意識の中で思うのは…滝夜叉丸の事ばかり。










あれから二年、滝はどれだけ成長しただろう…

もともと勉強はできるから…成績はトップなんだろうなぁやっぱり…

実技も…自慢の戦輪にどれほど磨きをかけただろう…

体術だって筋がよかったしな…ちょっと軽すぎる気もしたけど…

外見を人一倍気にする滝だから…きっと美しくなったんだろうなぁ…

自慢の髪も伸びたんだろうなぁ…





会いたいな…





滝夜叉丸…





そういえば、明後日だっけ…

卒業式…





こないだ今年入って来る新人のリストを見たら、しっかり滝の名前があった…

横に『スカウト』って書いてあった事…何だか無性に嬉しかった…

会ったら褒めて頭を撫でてギュッとして…って、そんな事ばかり考えてたよ…





明後日…なのに…





やっと会えるのに…





私の命は明後日まで持ってくれそうにない…





滝…





滝夜叉丸…





ごめんな…





約束、したのに…





迎えに行ってやれない…





あの日、お別れをした日…





滝は一生懸命涙を堪えてたな…





でも、今度は…





泣くんだろうな…





ごめんな…





その涙、止めてやる事、出来なさそうだ…





だって私も…





こんなに悲しい…





ごめん…





ごめん、な…











頬に涙が伝う感覚がして、そして私の意識はそこで途切れた…。






























『ジリリリリリリリリリィッ!!!!!』



けたたましい携帯のアラームで起きた。
よく起きれそうだと設定した「目覚まし時計」の音だけど、よく起きれすぎだ…

それにしても大学もバイトも休みのはずなのに、何でこんな時間にアラームかけたんだ?私。
ただ今午前9時30分。
寝ぼけた頭では何も思い出せず、ま、いいか…と再び枕に顔を埋めた。

何か…大切な用事、だった気もするけど……










ん…?

ここは、どこだ…?

ああ、最近よく見る夢か。

でも何で時代劇みたいな世界なんだろう??

…声、あっちに誰かいる。





『―…っ!恋人との今生の別れかもしれない時にっ、そんな不確かな憶測信じられるわけないでしょうっ!!』

あれは…滝夜叉丸!?

誰かと話をしているらしいが相手の顔がよく見えない。

耳をすまして聞いてみると、相手の男が口を開いた。

『じゃあ…こうしよう。二年後、滝が卒業する日に迎えに来るよ』

その瞬間、男の顔が見えた。

あれは…私…

頭の中で何かが弾けて忘れていた記憶が広がった。










迎えに…





行かなきゃ…





約束、したんだ…





そうだ…

私は滝夜叉丸と約束をして…

そして…



約束を守れなかった…










うっすらと目が開き、それでも鮮明に覚えている夢…いや、昔の記憶。
はっとして飛び起きた。
思い出したのだ、早起きした理由を。
超特急で着替えを済ませ、携帯、財布、鍵だけ持って家から飛び出した。





全速力で走る目的地は…滝夜叉丸の高校だ。
家から歩いて20分くらいの所にあるその高校は、今日卒業式なのだ。





走りながら携帯の時計を確認する。
AM10:09
卒業式は9時からだって言ってたから…式は終わってるだろう。
友達なんかと写真撮ったり喋ったりして…
ギリギリかな…
間に合えっ…!

大きな木のある家が見えた。
あの角を曲がれば学校はもうすぐだ。
走る速度を更に加速させその角を曲がる。
校門までおよそ100m、校門付近には沢山の生徒、だが目当ての人物はすぐに見つかった。

キリッとした目鼻立ち、凛とした身のこなし、そして滝夜叉丸ご自慢の綺麗な髪。
間違うはずがない。
昔から変わらない…私の滝だ。
ああ、昔と一つ違う所があった。
滝夜叉丸は女の子になったんだ。
それはどっちでも構わないんだけど、今の時代じゃそっちのが都合いいからな。
神様の粋な計らい…ってやつかな。

友達と言葉を交わして校門を出ようとする滝夜叉丸。
今日は特に念入りに手入れしたんだろう、翻った髪がとても綺麗だ。
きっとあの日も…そうだったに違いない。
ごめんな、あの日そんなお前を見てやれなくて…
でも、今度はちゃんと来たから。
遅くなったけど、あの日の約束を今果たすよ。





滝夜叉丸まで後10m。
歩き出した滝夜叉丸に、あの日に言いたかった言葉を叫ぶ。










「滝っ!迎えに来たぞっ!!!」










終わり





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