Novel(倉庫)

□ふと見れば
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(退屈だな…)





今は授業の真っ最中。
内容は明日の実技の前ふりといったところである。
しかもその実技というのが…

『変装しての侵入』

そんなもの、忍術学園が誇る変装名人である鉢屋三郎にとって知りすぎるというくらい知った内容すぎて、退屈だと思う事も頷ける。



(はぁ…なんでこんな授業受けなくちゃならないんだ…)



右側に座る雷蔵をちらと見れば、真剣に板書をしている。
窓際の最後列という絶好の席で、思わずため息をつき頬杖をついて窓の外を見遣る三郎。
外では一年は組が手裏剣の授業をしていた。



(あーあ、そんなへっぴり腰であたるわけないだろ乱太郎…)
(…あたった、木に。的狙えよ庄左ヱ門…)
(…兵大夫!地面に打ち付けてどうする…!)
(おお。威勢はいいじゃないかしんべヱ………)



投げたと同時にすっ転んだしんべヱ。
三郎も思わずがくっとなる。



(これが忍たま一年生…私の後輩か…)



あまりの駄目っぷりに頭がくらつく三郎だったが…



(きり丸…)



きり丸の順番になったのを見た三郎はふと袖から小銭を取り出し、そっと机の上に落とした。
途端、ゼニ目になったきり丸は手裏剣を投げるのを放棄し辺りを見渡す。
遠くて声は聞こえないが、何を言ってるのかはわかる。
おそらく…



『小銭!小銭ー!!』



(耳だけはいいな…)



と思うと同時に目が合う。たぶん合っている。
小銭をつまみヒラヒラと見せてやると、その小銭が見えたのかそれはもう気の毒なほどがっくりとしてしまった。



(よくもまあ、あんな遠くからこんな小さな物が見えるもんだな…)



前言撤回。耳と目はいいようだ。

やれやれ…と授業中の教室に向き直ると先生がこちらを見ている。



(あー…まずったな…)

「授業中によそ見して遊んでるとは、余裕だな鉢屋?」

(まあね…)



内心はまったく悪びれないが、すみませんとでもいうように頭を掻きながら苦笑いをする。
確かにこの授業に関して三郎は余裕だった。
先生もそれはわかっているのだが、それをあからさまにされては示しがつかない。というより面白くない。



「鉢屋、今説明した『変装』と『侵入』についての極意を言ってみろ」



と言われれば、小さくため息をもらしつつ立ち上がる。
そして…



「変装とは…」



と、淡々と語り始める。
淀みなく迷いなく紡がれるその言の葉は、どこかにカンペでも仕込んでるんじゃないかと思わせる程である。
その様子に、生徒からは感嘆の声が漏れ、先生の顔は強張った。
授業は確かに聞いていなかったが、幼い頃から父親に嫌というほど叩き込まれた教えだ。
意識せずとも口から勝手に言葉になる。



「…である」



と、いい終れば回りからは拍手。
先生からは…



「…本当に小憎らしい奴だな、お前は」



と言われた。
最上級の褒め言葉である。
拍手を遮る様に授業が再開され、三郎も腰を下ろす。
雷蔵の方を見遣れば…



『バカだね、三郎』



と声は出さずに口を動かす。
続けて…



『…ちょっとかっこよかったけどさ…』



頬を染め目線を外す雷蔵。
それが可愛くて堪らない三郎は…



『惚れた?』



と、雷蔵の板書用の本に書いて問うてみた。
何するんだよ!と小声で抗議する雷蔵だったが、書かれた問いを見てさらに顔を赤くする。
予想通りの反応にそれだけで満足だった三郎だが、雷蔵が何やら隠して書いている。
顔を背けたまま差し出された本には…



『そんなの、ずっと前からだよ』



と、小さく小さく書かれていた。
耳まで真っ赤にし、まだ顔を背けている雷蔵。
少ししても三郎の反応がないことを訝しんで振り向こうとした途端…



「雷蔵…可愛すぎ…」



と囁かれ、同時に頬に口付けを落とされた。



「…なっななな!?」



何するんだ!とか、今授業中!とか、馬鹿っ!とか言いたい事はいろいろあったが、あまりの驚きで言葉にならない雷蔵。
その顔はもはや茹蛸の域である。
茹蛸状態で固まっている雷蔵を余所に、三郎は雷蔵への愛の言葉を書き綴る。

『好き』
『大好き』
『愛してる』
『雷蔵かわいい』
『私の雷蔵』
『ずっと一緒にいて』

すると、我に帰った雷蔵が…



「あぁもうっ…!何するんだよ!!黒板写せなくなっちゃったじゃないかぁ…」



突っ込むところがそこか!?と言いたくなるが、真面目な雷蔵らしいとも言える。
三郎をじっと睨みつけ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
ご立腹のようである。
怒っても可愛いな…なんて思いながら三郎は…



「ごめん、ごめん。雷蔵があんまり可愛いもんだからつい…」



雷蔵はまた頬を染め…



「でも…黒板が…」



そんな雷蔵に三郎は…



「そんなもの、後で私が教えてあげるよ…」



と耳元で囁き、また口付けを落とす。
今度は首筋に。



「だから…許して?」



と続ければ、また茹蛸になった雷蔵がこくこくと頷いた。
それを見てにっこり微笑む三郎。

この後の二人の耳には授業など入ってこなかった。
否、入ってくるはずもない。








そんな二人を最後列の廊下側から眺めていたのが竹谷八左ェ門。



(バカップルが…)



と思ったのも無理はない。











三郎の書いた愛の言葉。

『ずっと一緒にいて』

の下には…

『もちろんだよ』

と書かれていたのだが、知っているのは今のところ雷蔵だけである。





終わります



* * * * *

………何だこれ。
鉢雷?ホントに鉢雷なのか!?
鉢雷目指して脱線した感が否めませんねー…。

三郎は常日頃から人をおちょくって生きてそう!って事では組のくだりを入れてみました。あの辺は楽しかった…。
たぶん三郎は目とか耳とかいいはずです。父親に仕込まれたって設定です。(←妄想)ですが、「あんな遠くから小銭見分けたり、ましてや落ちた音を聞き分けるなんて、できるわけない」by三郎 だそうです。
きりちゃんってすごい…(笑)


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