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□その手が暖かいから*留三郎編*
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俺は伊作が好きだ。

伊作を嫌いな奴なんかいないだろう。

伊作も俺の事を好きだと思う。
ただ、俺とは違う『好き』なんだろうが。


なぜ伊作を好きなのかわからないが、俺は伊作が好きなんだ。

猫目型の大きな目。
コロコロと表情を変えるその目は、見ているだけで人を和ませる。微笑まれればつられてこっちも笑うだろう。

偏ってはいるが膨大な医薬学の知識。
不運だヘタレだと言われながらも勝ち取った、知識と言う名の武器だ。

いつも物腰柔らかでヘラヘラっとしているようにみえるが、いざと言う時はいたって真面目で頼りがいがある。

今だってほら。
俺が連れて来た下級生の怪我を迅速かつ丁寧に処置している。そして最後にもう大丈夫と微笑みかける。
対した傷ではないと思うが…そう言うところが本当にお前らしい。

誰にでも優しい伊作。

誰からも好かれる伊作。

そんなお前だから俺は好きなんだ。

でも…

だけど…

その笑顔を、その優しさを俺だけのものにしたいと思う俺がいる。

俺のこんな気持ちを知ったら、お前はどう思うだろう。

きっと今のままではいられない。

だから言わない。

今はまだ。
だって…

「いつもゴメン、留三郎。」

そう言って、落とし穴の中から少し申し訳なさそうに微笑みながら差し出した俺の手をお前は掴む。

その手がとても暖かくて。

今はまだこの手を離したくないから。

もう少しこのままでいたいから。

今は言わないでおく事にするよ。



* * * * *

伊作編書いた後に絶対留三郎編もあるだろコレ!と一人ツッコミして書いた物です。


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