parallel 1

□ひざまずいてあいしてる 10
1ページ/6ページ



見慣れた、むしろ先ほどまで立っていた赤西のマンションの扉の前に着いて、ぼんやりした頭の中で、ああもう引き返すことはできないんだと思っていた。

いつも通りセキュリティーの掛かった扉を開けた赤西が自然と中に入っていく。

ああ…駄目だ。これ以上中には入りたくない。


「大丈夫だよ、もういないから」


扉の前に立ったまま玄関から先に入ってこない俺に気づいた赤西が眉を寄せると、宙ぶらりんになっていた腕を掴んで中に引き入れようとする。


「他人を抱いた手でさわんじゃねぇよ」


掴まれたその手を振り払うと、拒絶を表すために睨む。


「…ごめん」


なんで赤西がそんな泣きそうな顔するんだろうと、先程まで好き勝手言ってたくせに何なんだと、訳もなく罪悪感を抱きそうだった。

ああ、今の俺にはお前の気持ちがわからないよ、仁。



「ホストってマジなの?」
「さあ、ね」
「はぐらかしてんじゃねーよ。だいたい、なんで俺がこっちの界隈で人気があるってことを仁が知ってんの?お客じゃないのに知ってるなんておかしいだろ。売りとホストじゃつながりなんてないし」


瞬間、ソファに腰を下ろしていた仁が酷く切ない顔をしてみせたのは見間違いだろうか。


「お前さ、あの街で『夜の蝶』って呼ばれてるの知らないだろ」
「は?ちょう?って、俺が?」
「そう、蝶」
「…意味わかんねえ」
「綺麗な羽を常に羽ばたかせて、様々な花の甘い蜜を飲んでは飛び回る。そうして輝くように優雅な『蝶』なんてさ、亀にピッタリの呼び名じゃんね」


ぴったり…?なにがだよ。


「ホストに通うお客さんは、だいたい亀のこと知ってるみたいだったよ。だから女性の間じゃお前は有名なんだよ。まあ、仕事中は深い私情の話なんて探らないし、タブーだから夜の女性限定で有名なんだろうけど」
「じゃあなんでテメーは俺のことそんなに詳しく知ってんだよ」
「ひみつ」
「は?」
「絶対に教えてやらない」
「…俺の居場所、どうやってわかったか聞いても言ってくれないわけ?」
「教えてはやれない、けど」
「あっそう。もういいよ」
「『夜の蝶』探すのなんて慣れてるんだよ、俺は」
「はあ?」
「亀を探すのなんて朝飯前だって言ってるんだよ。あんま俺なめんなよ、亀ちゃん」
「意味わか、ッ!?」


何を言っているのかさっぱり分からなくて、呆けた頭で話を聞いていたら、突然赤西から腕を引かれて体勢を崩した。

そのままソファに座っていた赤西の膝の上に倒れ込むように収まった。


「いてぇよ、この馬鹿力」


ごめんと笑う赤西が俺の半身を持ち上げると、ふわりと膝の上に跨がらせる。

いわゆる騎乗位のような体勢にさせられて、目線が赤西と同じになってしまったせいか目のやり場に困った。

コイツ、何故かシャツ一枚しか着てないし。

俺のことを軽々と持ち上げたり、逞しい体つきだったり、同じ男としてそういう雄々しい赤西が少し羨ましく思えた。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ