parallel 1

□ひざまずいてあいしてる 8
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腕の中で喘ぐこの人は色っぽい。

俺が唯一信じた人は相変わらず綺麗なままで「かわらないな」と笑う。

だからまた泣かせてしまったのかと思ったら、やっぱり苦しかった。


『貴方に会うのはこれで最後にする』


悲しかった。ああこれでこの人とも会えかいのかと思ったら、自然と体を重ねて求め合う。


だけど抱いてる最中、俺は亀のことしか頭になかった。


亀、なにしてるかな。

人がいるのに何バカやってんだよって苛立ってるかな。

そうやってずっと亀の顔しか浮かばなかった。


帰ってないかな?
わからない。
亀を放っておいて、誰かを抱くつもりだったのに、帰ってほしくないと言ってしまった自分の気持ちが一番分からなかった。
普通は呆れるところだろう。

亀はカンがいいから、俺がなにしてるかなんてことは、間違いなく気づくだろうし。

きっと亀のことだから、俺なんかが誰とどうなっていようが自分には関係ないと思って生きてきたと思うんだ。

だから残されたことに、巻き込まれたことに腹を立てるのは当たり前だと思う。

それに、亀はいつだって強がりな淋しがり屋だ。

不思議と一人にしちゃいけないという気にさせられる。

いつも鳴いている。小さな声でニャーと。
拾ってほしいくせに素直に懐かない捨てネコみたいだ。

甘くすり寄ってきたかと思えば、突然離れてく。やっぱりネコだよ亀は。

本当は人一倍甘えたがりなくせに、それ隠してさ。

ああ、本当にかわいいよ、お前は。


『ン、じん』


腕の中で喘ぐこの人は色っぽい。

でもごめんなさい。余計なことばかり考えてしまう。

ひねくれてるけど凄くかわいい。
俺、亀の笑った顔が好きだよ。

だからお願い。帰らないで。
ふらふらして俺以外の誰かに拾われてほしくないんだ。


この人を抱きながら亀のことを考えたら、苦しくて悲しくて申し訳なくて、何故か泣きたくなった。










俺はあの人を見送らなかった。じゃあねの一言でサヨナラ。

部屋から出て、亀のいたリビングに向かう。


「かめ?」


だけど、やっぱりそこに亀はいなかった。

残されたのはカバンだけで他にはなにもない。

ああ、出ていったんだってコトはバカでもわかる。

心の中が一気に冷えていくのがわかった。

亀がここでなにを考えていたのか、どうしていたのか、そんなことはわからない。

けれど、蹴り飛ばされたテーブルを見て思ったんだ。

ああ、亀は悲しんでいたんだって。
俺が亀のことちゃんと見てなかったから。
蔑ろにしてしまったから。


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