Heroooo!

□One hero
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誰一人として近寄らない古びた公園で、静樹はブランコを漕いでいた。ギィ、ギィと錆び付いたブランコが音を立てる。
他の遊具も同様に錆び付いて、あまり使い物にはならないだろう。

周りには工事が途中で終わってしまった建物や人が居らず寂れていった廃墟ばかり。
更地も少なくはない。

こんな人通りが皆無な場所は怖いものではあるが、しかし静樹にとっては落ち着ける場所であった。
学校帰りには必ずこの公園へと足を運ぶ。それは中学校に入学した当初から始まった習慣だった。


「はー……寒い」


秋も深まった十月。空気は冷たく、静樹の素肌を突き刺していく。
ブランコに乗って風を切るのもいいが、寒くなってくると切る風が冷たくて体が急速に冷えていってしまう。
冷え性な彼女にとっては少々、辛いものがあった。
ぶるりと肩を震わせた。


「よし。帰るか」


背負っていたスクールバッグを背負い直し、ブランコから降りる。
その時、さらりとやけに長い前髪が揺れた。静樹は鬱陶しげに前髪を見て、払いのける。それでもすぐに視界を覆って僅かに眉をしかめた。
少し歩いてから、自分はどうして前髪だけを伸ばしているんだったかと自問自答した。まぁ、理由なんて単純なものだ。
――――単に人と目を合わせるのが苦手だから。







空は紫がかった夕暮れ。日が落ちかけている所だ。
冬に近づいているからか、日が短く暗くなる時間も早い。まだ五時だと言うのに、日は落ちていっている。

静樹はゆったりと公園から離れながら、空を見上げる。空を見上げて、不気味だと呟いた。
橙色の日の色と紫色の空。その色合いの所為で好きな筈の空がなんだか気持ち悪く思えて、目を閉じ、顔を下に向けた。


「っと、うわっ」


その瞬間、何かにつまづいて静樹の体は前のめりに倒れる。
体が地面と擦りあって、膝と腕にヒリヒリとした痛みがやってきた。少しだけ顔を歪めた。
ヒリヒリする掌を見るが、それほど酷くは無かった。
擦りむいていない方の手を使って立ち上がる。
そして膝を見れば掌と同じように擦り剥いていた。ため息を吐いて砂利を払った。

屈んだ状態でふぅと一息吐いて、そこでやっと静樹はつまづいたものを確認する。
後ろを振り返って何につまづいたのかと見てみれば、そこには黒いバッグが一つだけ置いてあるだけだった。そこまで大きくも無い、静樹が背負っているスクールバッグ程度の大きさ。
こんなバッグに足を引っ掛けて倒れこむ自分の姿はどれだけ滑稽だっただろうか。少しだけ恥ずかしくなる。
空に気を取られていた数秒前の自分を静樹はなじった。

そして、ほんの少しの好奇心でバッグに手を伸ばす。何故こんな物がここに放置されているのか気になっただけだった。
すっと伸ばされた手がバッグに触れようとした瞬間、少しの寒気がしてピタリと手が止まった。
何となく静樹は気になって後ろを振り向く。


「それ僕のだよー」


振り向いた先には人が居た。目が合うとその人は薄く笑って、バッグを指差して言う。
静樹ははっとして伸ばしていた手を引っ込めた。
僅かな寒気が、まだ取れなかった。
 
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