GANTZ

□かわいそうな猫
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白い猫がいた。すごく綺麗だと思ってた。その猫は二日前、道路の端っこで、内臓を垂らしながら死んでいた。赤い血が濃くなってパリパリに固まっていた。



隣の家の男の子は、確かもう中学生だ。1年生か、2年生。ご近所付き合いがなかったのではないけれど、隣の家はなんというか、閉鎖的で、あまり積極的に周りと関わろうとしなかった。隣の奥さんにしろ男の子にしろ、基本的に私と目が会っても挨拶も会釈もしない。私から、奥さんに挨拶すると時々、返ってくる。男の子は、しかし、何もない。

隣の家は表札もないので、私はついに名前を忘れていた。母に聞くと、「西さんでしょう」と、言った。西さん。男の子は西くん。

「丈なんとかくんじゃなかったかな」
「なんとかッて…」
「だってもうずっと西さんとはお話してないからねぇ…じょう、じょう、丈太郎だったかしら」
「西丈太郎?」
「わかんないわ、もうお母さん記憶力ないし」

お母さんの記憶が正しいなら、彼は西丈太郎くん。

彼が、猫を殺す人だ。


私は一度塾帰りに公園を通ったとき、西くんが猫を殺しているのをみたことがある。というよりは、聞いたことがある。
みゃーみゃー鳴き声が聞こえたので暗い中猫を探すと、バンッと破裂音がして、鳴き声が止まった。そちらをみると西くんがいて、「猫、いなかった?」と聞くと、「さぁ」と言って、
公園を去った。彼がいたところには、猫の死体があった。


私は猫をどうしようという気にはならない。放っておけば、死ぬ。彼はあのままどこにもいけずに死ぬだろう。

白い猫のように。誰かの手によって。死ぬ。




午後八時頃、私は友人の家から帰宅した。家の戸を開けようとすると、にゃあにゃあと鳴き声が聞こえてきたので、その声の場所を探ると、どうやら、隣の西さんの家の庭からのようだった。

がちゃ、と西さん家の門が開き、誰かが家までの道を歩く。私は、それが西くんであることに気づいた。にゃあにゃあと鳴く猫のそばに、彼は立ち止まった。
私は、それを見つめていた。彼が何もしないので、私は「西くん」と声を掛けた。西くんは少し驚いた表情で、私を見た。


「丈太郎くんだっけ?」


西くんは途端に眉間に皺を寄せて、軽蔑の眼差しを私に向けた。


「丈一郎」


小さく、彼の声が聞こえた。私は謝って、呼びなおす。


「丈一郎くん」


猫は、にゃあ、と鳴いて、ゆったりと、丈一郎くんから離れ、ひょいと門の上に跳び乗り、私の方とは反対の、西さん家の隣の家へ移った。


「猫が、すきなの?」


丈一郎くんは、去った猫の方向を見つめながら、「別に」と、無愛想に答えた。


それに続くように、にゃー、と、先ほどの猫なのか、泣き声が遠くから、聞こえてきた。



かわいそうな猫





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