GANTZ2
□愛が重い。
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「重い」
と、西が言った。何が?
「もっと痩せろ」
と、その後に言ったので、ああ、なんだ体重のことかとほっとした。
その日、すきっ腹にはちと重い濃厚なチーズケーキを持っていったので、私のギクリ、は、非常によく鳴った。
確かにここ最近の私は5キロほど太って、確実に重くなった。
階段をあがるのも前よりきつい。どすんどすんなんて、みっともない音はしないけど、スカートからのぞくのはみっともない豚足。
「痩せるか」
友人には、あいつのために痩せるなんて、馬鹿馬鹿しいよと笑われた。でも彼女は私が西と付き合っていることも馬鹿馬鹿しいと笑った。
季節が変わって、もうそろそろマフラーをつける人がちらほら見つかるころ、西が、「日曜映画な」と、私をデートに誘った。
日曜日は入院しているおばあちゃんに会いに行く予定だったけれど、おばあちゃんには電話で謝っておいた。来月会いにいけばいい。
西と出かけるときは絶対にヒールを履かない。リップグロスもべたべたすると言われたので、しない。ウォーターインリップでうるうるに潤わすだけ。
付けまつげも気持ち悪いといわれたから全部捨てた。映画はスプラッタを見る。たまにホラー。彼は表情を変えずに画面をみつめる。私はそれを少しだけ見る。間においたポップコーンを西はあまりとらない。
終わったあとの感想は、大概文句ばかりだ。映画のことでいいと思ったことについては、私が言って、「ああ」と、少しだけ笑う。初めて一緒に映画を観にいったとき、「よくわかってんな」と、褒められた。
私はそれからレンタル店で会員登録をしてホラージャンルのところにひたすら通って西の好きそうな映画を一人で観る。
メールは、どちらからも送らない。たまに、「暇」と、西からメールがきたときに、近くのケーキ屋で手土産を買って西の家へ向かう。ゲームや漫画の新刊をもっていくと、少しだけ嬉しそうにする。
同年代の子たちのような楽しみはない。西ふぁむ、6ヶ月記念(ハート)なんて、冗談でも言わない。大体私は籍入れてなどない。
ただ冬の香りを西と味わう。それだけで十分なのである。本当に。
「重い」
「え?痩せたよー?」
「そうじゃなくて」
「えーじゃあ何、が」
このときの私のギクリは、多分一番よく響いた。その後の動悸もしばらく続いた。
西の次の言葉が続くまで私の時の進み方は非常に遅く、とまってしまったのではないかと疑ったくらいである。
「昼食ってないって言ったのに、このケーキを選ぶお前は馬鹿だ」
「あ、フルーツケーキが、ね」
確かにそれはバターいっぱいでちと重いかもしれない。
西の眉間によせた皴をみつめながら、私は心の底から安堵して、西が重いといったフルーツケーキを手に取る。