企画

□僕には、君が必要なんだ。〜切原ver.〜
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「っあ、槙原!また、明日な!」

一生懸命に笑顔を作り、俺に手を振ってくる男。

切原赤也。

「おう。またな、切原。」

チラッと切原の顔を一瞥し、直ぐに背を向ける。

俺は帰宅部。
立海男子テニス部エースなんて肩書き持っているようなヤツとは、違うんだ。

俺と切原の関係は一応、こいびと。
なんで一応なのかは、俺が切原に曖昧な返事しか返していないから。

…こわい、と思う。
俺は、切原の想いがこわい。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに俺を見て告げた“好き”と言う言葉。

俺も好きだよ、って伝えられたら。
切原はきっと、もっと綺麗に笑ってくれるのに。

俺は怖くてそれが出来ない。
切原の真っ直ぐな想いに、俺が応えて良いのかがわからない。

それに、元々切原は女が好きな普通の男だ。

俺とは、違う。ちがう。

「…ちがうんだ。」

ポツリ、誰に言うわけでもなく呟いた。

俺はいわゆる、同性愛者。
ホモ、ゲイと言われる人種だ。
家族は、それを認めて支えてくれている。

「…なんで、切原は俺を…。」

俺を、俺なんかを好きになってしまったんだろう。

こわい、こわい、こわい。
なんで。なんで。
ちがうだろ、お前は、女を好きになれるだろ。
おれとは、ちがうだろ。

なんで俺も切原が好きなの。
男なのに。普通の男なのに。
なんで、かなわない恋がかなっちゃうの。
俺は、切原の人生を壊したくないのに。

切原は、普通に女を好きになれる。
だから、結婚して子供つくって、俺が味わえない幸せをかみしめればいいのに。

こわい。なんで、ごめん。

恐怖と疑問と罪悪感が俺の中をぐるぐるぐるぐる駆け回る。

ちがう。
1番ダメなのは、切原の好意に甘えそうになる、弱い俺だ。
ハッキリと断る事も出来ず、かと言って、自分の気持ちも切原に言えない。

切原、ねぇ、切原。
なんで俺が好きなの。
俺でいいの。本気なの。

ぐるぐるぐるぐる、切原へ問いかけが頭をめぐる。
返答なんて、返ってこないのに。

切原、すきだよ。すき、だいすき。

この気持ちは、言っちゃいけないもので。

なのに。

切原の告白に、気持ちが揺らいだ。

言っていいんじゃないか。
切原も俺を好いているのだから。

言ってはダメだ。
切原は俺のいる道に入って来させちゃ、ダメだ。

ぐるぐるぐるぐる、二つの気持ちがめぐる。

うらやましい。
女の子がうらやましい。

公の場で、好きな人を言えるから。
恋ばななんて可愛い話が出来るから。
好きな人に告白出来るから。

普通の男がうらやましい。

女の子を好きになれるから。
女の子の体を想像して興奮出来るから。

うらやましい。うらやましい。

なんで、俺は。

ごめんなさい。
好きになってごめんなさい。

いつもいつも、誰かを好きになるたびに罪悪感が募る。

相手は俺を友人として好いているのに。
俺はちがうから。

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