nOvel

□耳かき
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「いいですよ、何がいいですか?」

「……耳かき」








俺は(半ば強制的に)野分と風呂に入った。

それはあの、捨てられた仔犬の寂しそうな顔にまたもや騙されたからだ。



まあ、実際楽しかったのだが…。




で、そのお返し(3倍)をしてもらうということで、冒頭に致る訳である。
「ヒロさん、俺の膝に頭乗せて下さい」

「………おう」


言われた通りに頭を乗せた。

野分の風呂上がりで高くなっている体温が心地良い。


「何だか俺、今目茶苦茶幸せです」

まだ湿っている髪を愛おしそうに野分の綺麗な指が梳く。


「い、いいから早くしろっ」

「あ、はい。すみません」


髪を掻き分け、耳を出す。

「ほら、、」

「はい。」


最初は優しく綿棒で全体を綺麗にし、水気を取った。

「(目茶苦茶気持ち良い…)」

「ヒロさ〜ん、どうですか〜?」

「ん、……なんか眠くなってきた」

「気持ち良いですか?」

「うん」


その心地良さに安心した自分の躯は目を紡ると段々、
夢の中に意識を送りそうになる。

「次は、耳かき棒でしますね」

「…ん〜」


本当、何でこんな耳かき上手いんだコイツ…

不意に浮かんだ疑問は今の頭じゃ解答するにもいたらなかった。


「ヒロさんは耳も綺麗なんですね」

「ん〜?」


本当に眠りそうになった刹那、

「……っ!」

「あれ、擽ったかったですか…?」

いきなり感触が代わって驚いた。
綿が耳をふわりと撫で上げる。


「…ふっ、擽ったい」

思わず破顔してしまう。


「気持ち良くないですか…?」

「ん〜気持ち良いから大丈夫だ」


「良かった」

そのままふわふわとした感覚は続き、
俺は相変わらずの夢心地。


「はい、片耳終わりました!逆向いて下さいね〜」


「…………」

「ヒロさん?」


寝ちゃってる?

可愛い!
無防備な彼は、いつもの白い肌を未だほてらせ、
長い睫毛を際立たせている。

規則正しい寝息と共に、彼の胸が上下する。

その胸に自分の手を宛がうと、心音が伝わってきた。




「ヒロさん、愛してます」


耳元で囁いたのは耳かき終了の合図。
 

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