novel2

□追悼 2010
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「ただいま」


扉の開閉音とともに
青年が室内へと入る。

すると奥から金髪の少女が彼のもとへと歩み寄り、
「お帰りなさい、ライト
今日もお疲れ様」
軽く口付けを交わしてリビングへ。


「あれ?お花…もしかしてミサに!?」
歩きながらビニルの擦れる音に気が付く。
青年は立派な花束を二つ、
真紅の薔薇と純白の薔薇を手にしていた。

「嗚呼、これはミサに。こっちの白いのは献花にね」

「有難うライト!でも、献花って?」
少女は薔薇を受け取り眩しい笑顔を見せた。

「カトリックではこの時期に追悼式をやるんだって聞いてね。」
花束に視線を落とし呟いた。

「そっか、ライトは優しいね」


それから、少女はキッチンへと戻り
青年は自室へ。

花束をデスクに置き、上着を掛ける。
花束を見つめる表情は僅かに歪んでいた。


「お前の為に買ってきたんだ。真っ白なのはお前に似てたからだよ。竜崎」

零れた名前は愛しい愛しい想い人。
もう二度と逢えない人。


「今年で5年目だな、お前がいなくなってから」
(僕が独りになってから)

「来年もまた花束を買うよ」
(僕がまだ独りなら)

「愛していたんだよ」
(僕はお前を愛し
ている)



少女の声に呼ばれ、青年はリビングへと行ってしまった。















***


「昨年は花束を有難うございました」

「何だ、覚えていたんだな」

「はい。嬉しかったです
私を忘れていないという事実が」

「忘れられる訳がない」

「今年は花束、下さらないんですか?」

「生憎持ち合わせがないんでね。代わりといってはなんだけど
今年は僕でどうかな?」

「それは大歓迎ですよ」

「竜崎、もう独りにするなよ」

「貴方が望むのならば」







無の世界にたった二人
永遠を分かつ存在となる

2010.11.05
追悼 L=lawliet
 

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