novel2

□僕と君と雨の日
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秋雨が酷い。
「あきさめ」とも読むそれは

硝子の窓に体当たりしてメロディーを奏でる。

ぴちゃぴちゃ



「ヒロさん、寒くないですか?」

「嗚呼」


今日は野分と重なった貴重な休日。

なのに外は季節雨。

予定は大きく変更すること他無かった。


「仕方ないですよ。
天気ばかりはどうすることもできませんから。」


野分は俺の心を読んだようなタイミングで呟いた。


「…うん。解ってるよ、そりゃ」


でも落ち込んだっていいだろう?
俺だって人間だ。


そんな風にふて腐れていたら。



曖昧な旋律
流暢な発音


「…野分?それ、何の曲だ?」


「留学の時に教えて貰った賛美歌です」

そう言った野分は何処か遠かった。

急に速まる心音。
突然の不安に駆られ、
刹那


「……っ、野分」

「ヒロさん?」


俺は野分に抱き着いていた。


「大丈夫。俺はちゃんと貴方の隣、
此処に居ますよ。」

長く綺麗な野分の指先が
俺の髪をゆっくりと掬いた。


「……野分、」

「珈琲でも飲みましょうか。寒いんですよね?ヒロさん」


「……要らない」

俺は小さく呟く。
そして続けた

「離れたくない」


空気が小さく揺れた。
見上げると
野分がフワリと微笑んでいた。


「可愛いです」

額にかかる髪の上から

一つ
口付けを落とされる。



「愛しています」





今日は雨が降っていて

憂鬱な気分だった筈なのに。

何故かこんな日もいいかななんて
現金な自分がいた。






僕と君と雨の日
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