バルカローレ ―水平線の狭間の物語―
□旅日誌 vol.2
4ページ/4ページ
悪意なき悪辣な世界
行方不明になったライリーを探す道中。
「にしても、何なのこの国は。子供を捨てるなんて意味わかんないわ」
小声ではあるが、言わずにはいられなかったのだろう。アメリアが吐き捨てた。
「ああ、悪意のない所がまた質が悪い」
チェイスは顔をしかめる。
「おや、仮にもここはあなたの"故郷"では?」
「だからといって好きになれるわけないだろ。オレはここが嫌いなんだ」
セクトルにそう返す彼の表情には愛国心など微塵もない。
アメリアのことが無くとも、いつか国を捨てたのではないか。そのくらいの感情が込められていた。
「薄気味悪いんだよ、この国は」
チェイスはぼやく。お人好しそうな彼の性格からして、あの風習は到底受け入れられないのかもしれない。
海の国を知っていることも、空の国の異常さへの嫌悪に拍車をかけているのだろうか。
「どちらの国も……いっそ世界とは、ままならないものですね」
セクトルの言葉に込められているのは諦観。そんな彼の言葉が届いたのか、リトルがセルの手をきゅっと握った。
縋るような小さなその手は、いつも彼を"引き留める"。
自分がリトルを守っているのか、リトルに守られているのか。分かりはしないが、お互いがお互いを必要としていることは確かだった。
「セル、何か言った?」
「いえ」
「ひとまずライリーを探すぞ。こんな国で一人になるなんて、ろくなことがない」
「そうですね。東側へ行きましょう」
セクトルは自分よりはるかに強い存在――アメリアとチェイスを見た。
理不尽な状況に晒された彼らだが、二人に諦めの色はない。
はたしてライリーはどうなるのか。それはまだ分からない。
一歩間違えたら世界を恨んで色々やらかしてたかもしれない彼のお話をほんのりと。