バルカローレ ―水平線の狭間の物語―
□ポルトラーノ編
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手始めの目的地 ―ギルド船パーピュア―
5人は何隻かある船のうち最も大きい船に上がった。
「よっし、とうちゃーく! ここがギルド船、パーピュアだよ!」
自分の船に帰れたのが嬉しいのか、ライリーはにこにこしながら他の4人に告げた。
「よし、では色々調達するついでに少し見て回るとするか。ライリー、案内を頼む」
「まっかせて! まずは……」
「あら、ライリーじゃない!」
「もう帰ってきたのか?」
ライリーが足を踏み出そうとしたその時、彼は船を歩いていたカップルに声をかけられた。ライリーより少し上くらいの年齢だろうか。
どうやら知り合いらしく、ライリーは元気よく手を上げて応じた。
「ジュリー、ギル! ただいま!」
「お前、もしかして役に立たなくてお払い箱になったのか?」
「違うよ! ここが最初の目的地だったんだい!」
「どーだか。お前臆病だからなー」
「違うってば! それに僕は臆病じゃないやい!」
「ほらほら、いいかげんにしなさいな。旅の方も困ってるでしょう。ごめんなさいね、二人はいっつもこんな感じなの」
優しげな雰囲気の女性、ジュリーはアメリア達に頭を下げた。
「いや、別に気にしてないわ」
「ありがとう。ほらギル、もう行きましょう!」
「へいへい。じゃあなライリー。お仲間さんに迷惑かけまくるんじゃねーぞ」
「かけてないよ!」
「またねライリー。ホームにも顔を出してあげてね」
「うん、そうするよ。またねジュリー」
去っていく二人にライリーは大きく手を振った。その隣にアメリアが立つ。
「知り合い?」
「うん。まあとりあえず、道具屋に向かうってことでいい?」
「そうですね、物資の補給をしたいので」
「分かった、じゃあこの船の紹介でもしながら行くね!」
そう言い慣れた様子で船の中を進んでいく。
「この船はギルド船って名前の通り、色んなギルドがあるんだ」
「アタシの所もギルドだけど?」
アメリアの言葉に首を振って答えるライリー。
「アリィの船は大きな一つのギルドでしょ? ここはそうじゃなくてたくさんのギルドがあるんだ。航海、探索、運搬、造船とか、他にもたくさんの部門で分かれてるんだよ」
「そういえば王国船もここのギルドによく世話になっているな」
「学術船でもたまに仕事を依頼することがありますね」
リトルもセクトルに賛同するように頷いた。
「でしょでしょ! 色んな技術を持ってる人が集まってる船なんだよ!」
皆に自分の船を自慢できるのが嬉しいのか、ライリーは笑顔で頷く。
「ふーん、アタシの所とだいぶ違うのね」
「ポルトラーノ船団王国はそれぞれ船によってだいぶ様子が違うもんね。ふう、着いた!」
目的地にたどり着いたようで、ライリーは立ち止まった。
「ここが日用品とか雑貨、あっちが食糧を売ってるんだ」
「そうか、ありがとうなライリー」
「では食料や消耗品、それと各自必要な物を買ってから船に戻ってラルム・ジュエルの話をしましょうか」
「あー、ちょっと僕、用事があるからそれからでもいいかな?」
セクトルの提案に歯切れ悪く言うライリー。それに対しブルクハルトは渋い顔だ。
「ラルム集めは王命で、しかも急を要するからな……」
「ちょっとだけだから! なんならみんなは先に船戻ってて!」
必死なライリーにアメリアはため息をつきながら言った。
「アンタもしや、荷物持ちサボる気?」
「違うよ!」
「だったら、ちょっとくらいアタシ達は待つわよ。ほら、さっさとその用事とやらを済ませちゃいなさい」
「え? いいの?」
アメリアの言葉が意外だったのか、ライリーは目を大きく見開く。そして恐る恐る他のメンバーの方を見た。
「構いません。私自身は特に急いでいるわけではないので」
「ん」
「アメリアがそう言うなら仕方ないな」
三者三様に賛成の意を示す彼らにライリーの目が輝いた。
「みんな……ありがとう!」
「そうと決まったら先に行きましょ。どうせ買い物したら荷物で手がふさがるんだから、買うのは後が良いわ」
「え、ついてくるの?」
「あったり前じゃない! なに? ついて来るなって言うの?」
「い、いや、別にいいけど……」
「じゃあさっさと行くわよ!」
「ちょっとアリィ、そっちじゃないってばー!」
残った三人は苦笑を交えつつ騒がしい二人を追った。