バルカローレ ―水平線の狭間の物語―
□ポルトラーノ編
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集った所で改めて
「で、セル。パーピュアに進路取ってるけど、それでいいんだよね?」
「はい。迷子にならないようお願いしますよ」
「ならないよ! 僕の故郷船だもん!」
「へー、ライの故郷ってギルド船なんだ」
セクトルに反論しながら頬を膨らませていたライリーに、アメリアが言う。
「うん! ……そうだ、みんな揃ったんだからそれぞれ自己紹介しようよ!」
「そうだな、これから同じ船で旅をする仲間だ。協力する場面もあるだろうからそれぞれについて知っておいて損はない」
ブルクハルトもライリーの提案に穏やかに頷いた。
「ま、アタシはどっちでもいいけど。で、何を言えばいいの?」
「名前……はもういっか。じゃあ出身船と、普段何してるのかと、得意な事、とかでどう?」
「構いませんよ。もしもに備えて、あなたたちの情報はなるべく把握しておきたいですからね」
眼鏡を光らせて言うセクトル。リトルも特に嫌そうなそぶりは見せていない。
決まり、とばかりにライリーは笑った。
「じゃあ僕から! さっきも言ったけど出身はギルド船のパーピュア。航海士だから、船の操縦の仕事をよく受けてるよ! 得意なのはやっぱり船の操縦。国家資格も持ってるしね!」
「国家資格を持っているんですか?」
意外だったのかセクトルが聞き返す。ライリーは得意そうに胸を張った。
「そうだよ! すごいでしょ!」
「ええ、変人ですね」
「変人じゃないやい! アメリアにもおんなじこと言われたよ!」
「だって、ねぇ」
怒ったライリーをよそにセクトルの方を見るアメリア。セクトルもそれに同調した。
「ええ。三年に一度しかない、しかも合格率一桁という試験ですから。受けるのは相当なマニアかマゾヒストくらいでしょうね」
「ちがうってば!」
あくまでライリーをからかう気でいるセクトルとアメリア。助け舟のつもりか、ブルクハルトは苦笑して口を開いた。
「では次は俺が。出身船は王国船オーア。王国騎士団長を務めている。得意なことは……これと言ってないな」
「え! ブルックって騎士団長だったの?!」
「ああ」
「私も初耳ですね」
驚くライリーとセクトル。アメリアは知っていたため平然としていた。
「ま、アタシは聞いてたけどね」
「騎士団長って、騎士団で一番強い人でしょ! うわぁ、ブルックってすごかったんだ……」
一番強い、と聞いてアメリアが目を光らせる。
「へー、ブルックって強いの?」
「まあ、騎士団の訓練を一通りは受けている」
「じゃあいつか手合せしてちょうだい」
「機会があれば、な」
曖昧に誤魔化そうとするブルクハルトだが、アメリアの中で手合せをすることは決定事項らしい。
アメリアは機嫌よくにっこり笑いながら言った。
「約束、絶対ね! じゃあ次はアタシが。出身は闘技船ギュールズ。よく積み荷の護衛してたわ。得意なのは剣術と料理、かな」
「え、アリィって料理できるんだ……」
ライリーは驚いた様子を隠そうともしない。からかう意図はなかったのだろうが、そのあまりの驚きようにアメリアは眉間に皺を寄せた。
「今日一番の衝撃ですね」
にこにこ笑うセクトルはライリーと違って確信犯である。アメリアの眉間の皺がさらに深くなる。
「二人とも……ちょっと話があるんだけど」
「え、えっと、次! リト、いい?」
怒れるアメリアに気付いたのか、ライリーは慌ててリトルに矛先を向けた。
彼が「逃げやがって」というアメリアの呟きに身を縮めていたのは仕方ないだろう。
そして話しかけられたリトルは。
「……」
黙ったままセクトルの服を掴み、そのまま彼の後ろに隠れてしまった。
「え、リト?」
「この子はこういうことが苦手なんですよ」
その言葉を肯定するように、服を掴むリトルの手の力が強まる。
彼はリトルの頭をひと撫ですると、黙りこくるリトルの代わりに語った。
「リトは私と同じ学術船アジュール出身で、普段は私の手伝いのようなことをしています。得意というか分かりませんが、魔術が使えますね」
「魔術? それってどういうの?」
見当がつかなかったのかアメリアがそう尋ねる。
「エルフが使える不思議な力、と思ってくださって結構です。ラルム・ジュエルを手にすればラルムの子であるあなたも魔術に似たような力が使えるようになるらしいですよ」
「「え、そうなの?!」」
アメリアとライリーが同時に驚く。ブルクハルトは知っていたのか、腕を組んで頷いている。
「よくは知らないが俺もそのことについては聞いている」
「俗にラルム術と呼ばれ、エルフ族の魔術とは少し異なるようですが。まあそのあたりは追々分かるでしょう」
「へー、アタシがそんなのを使えるようになるなんて」
信じられないという顔で自分の手を見つめるアメリア。
「ラルム・ジュエルのエネルギーは莫大なので、使用の際は細心の注意が必要です。まあ、その指導くらいは私がしてあげますが」
スパルタですよー、と笑顔のセクトルにアメリアは「地獄ね……」と、とてつもなく嫌そうな顔をした。
話が横にそれたのを感じてか、ライリーが口をはさむ。
「えーっと。じゃあ最後にセル、自己紹介!」
「はいはい分かりました。先程も言いましたが出身船はリトと同じ学術船アジュール。普段は王立研究所でラルムの研究をしています」
「得意なことは?」
「そうですね。速読、暗記、暗算なんかは得意ですよ」
「あと嫌味を言うのもね」
アメリアの一言にも動じない。
「おや、心外ですね。私は思ったことを言っているだけなのですが」
「アンタは一言多いのよ!」
「多少は胸の内に留めておいてほしいものだな」
「すみません、根が正直なもので」
ブルクハルトの苦言にも笑顔で返すセクトル。どうやら改善する気はないようだ。
そんな微妙な空気を壊すようにライリーの声が響いた。
「あ、船が見えたよー!」
彼の言葉どおり、大きな船が視界の前方に見えた。