バルカローレ ―水平線の狭間の物語―

□旅日誌 vol.1
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  釣り日和?







「夜ごはんの魚を釣ろう!」


それはライリーのこんな提案が始まりだった。


「そうね、調理さえすれば長持ちするし」

「ああ、食糧は確保できる時に確保する方がいいしな」


アメリアとブルクハルトは即座に賛成するが、セクトルは面倒そうに肩をすくめた。


「私はどちらでもいいですよ。今すぐに必要というわけではないですからね」

「じゃあリトはどう? アタシたちと魚釣りしない?」


誘うターゲットをセクトルからリトルに切り替えたアメリア。
リトルは思案するように首をひねると、簡潔に返事をした。


「……する」

「リトがするなら私もやります」

「やった! じゃあみんなで魚釣りだ!」


リトルを味方につけ、まんまとセクトルの賛成をもぎ取ったアメリアはにやりと笑った。
そんなアメリアの思惑は分からなかったのか、ライリーは無邪気に喜んでいる。


「じゃ、それぞれ準備しましょ」


アメリアの言葉を合図に各々魚釣りの準備を始めた。





数分後。


「お待たせ!」

「遅いわよライ。さっさと魚獲るわよ」

「うん……って、みんな持ち物違いすぎない?」


彼の言う通り、皆が手にしている道具はそれぞれ違うものだ。

まずライリー。持っているのはスタンダードな釣竿。エサは付けておらず針のみがついている簡易的なものだ。


「えー、ライそれじゃあ魚獲れないんじゃない?」

「いやいや、魚釣りって言ったら普通これでしょ! 僕のとこではこれだったよ!」

「せめてエサくらいつけないとー。ねぇブルック」

「そうだな。ずいぶんと古風な釣竿だな」

「僕のが古いんじゃなくて、ブルックのが最新式すぎるんだって!」

「確かに。アタシもそんな道具使ったことないわ」

「そ、そうなのか?」


ライリーとアメリアの言葉に驚いているブルクハルトが手にしている道具は、ルアーの付いた丈夫そうな折り畳み式の釣竿だ。
クーラーボックスまであるという準備の良さ。


「そうですね、私の船でもあまり目にしませんよ。流石王国船の騎士様は違いますねぇ」

「ん、めずらしい」

「そういうセルとリトだって、もうそれ釣竿じゃないじゃん!」


ライリーが指差したのはセクトルとリトルが持つ壺と漁網。


「僕、魚釣りって言ったよね?」

「何か問題でも? 魚が獲れれば構わないでしょう」

「確かにそうだけどさ!」

「……これ、楽」

「魚釣るのがめんどくさかったの?!」

「あはは、セルとリトらしい気もするわ」


呆れたように苦笑するアメリア。彼女が持っていた道具は――


「アリィ、人のこと言えないから! それ、銛(もり)だから!」

「いいじゃない、魚獲れれば」

「セルとおんなじこと言ってる!」

「さー、ガンガン狩るわよー」

「野生児だった! なんなのさみんなして! カルチャーショックだよ!」


ライリーは一人頭を抱えた。


「ライ、さっさと魚獲るわよー!」

「発案者がサボるのは駄目ですよ」

「……早くしよ」

「この釣竿使ってみるか、ライリー?」


他のメンバーがライリーに早くするよう促す。


「僕がおかしい?いや、そんなはずは……」

「よーし、誰が一番魚獲れるか競争しましょ!」

「あ、僕負けないからね!」



こうして賑やかに魚釣り競争が始まった。


夕飯は豪華な魚料理だった。
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