短編以上長編未満
□光ある国
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翌朝、とある法令がルクス王国を驚愕に陥れた。
「え! 何だこれ?!」
「な、なんと?!」
「オイオイ冗談だろ?」
「何でいきなりこんな……」
その法令が掲げられているのを見て怒りだす者や、反対に感激で身を震わす者がいる。
法律の内容は瞬く間に噂になり、国中がその話題で持ち切りになっていた。
普段は政治にあまり関心がない国民も、今回の法律についてはたいそう興味があるようだ。
所変わって王宮では。
一人の大臣がこの法令を知り、血相を変えてピッカリン国王がいる部屋に向かった。
「ピッカリン様! あの法令はどういうことなのですか?!」
「ああ、見たのかフッサールよ。書いてある通りじゃ」
フッサール大臣が驚愕した法律は"少数者人権保護及び優遇法"という法律だった。
法律の名前だけを聞けばそれほど問題はないようなのだが。
「あの内容は何なのです?! 薄毛及び毛の無い者の権利保護・優遇処置とは!」
「そのままの意味じゃ。なんじゃ、何か悪い所でもあるのか?」
「ぶ、無礼を承知で申し上げますが、あのような内容は問題があるのではないかと……!」
自らの非礼をわびつつ意見するフッサール大臣。
ピッカリン国王は気を悪くする様子もなくそれを許し、聞き分けのない子どもを諭すような口調で言う。
「いいかフッサール。わしは普段から髪の悩みを持つ者と話し合いを続けてきた。その誰もが、他人の痛みを理解しようとする良い奴ばかりだった」
「は、はあ……」
「だが彼の者達は、自らの髪の悩みを馬鹿にされるゆえに、周りの目を気にしてこそこそと隠れねばならぬという。これはおかしくはないか?」
思案気に言うピッカリン国王。
おかしいのは王様、あなたの方です! と言いたいが言えずに黙るフッサール大臣。
「何故、才能があり思いやりもある人物たちが肩身の狭い思いをせねばならぬのじゃ? それは彼らを認めない世間が悪かろう。だからこそのあの法じゃ」
「で、ですが! あのように突然他の者との扱いを隔するような法律を定められては、国が混乱します!」
「フッサールよ。正当に人権を守るためには強硬手段も必要なのじゃ。しかし、何か気になる点があったら今のように遠慮なく言っとくれ」
ピッカリン国王は人懐っこい笑みを浮かべていった。
このような寛大な部分が現王の好かれる点であるが、今回ばかりはそれが裏目に出た。
自分の憂慮を全く聞き入れてくれないことにフッサール大臣は胃が痛むのを感じた。
忠告も反対意見も、もしかしたら罵倒さえもピッカリン国王にはアドバイスと受け取られるのだろう。
だからこそフッサール大臣の意見を感謝し受け流す。
むしろ怒ってくれた方が大っぴらに反対できるものを。
そういえば、とフッサール大臣はピッカリン国王がカツラを付けていないことに気が付いた。
あの法律のキャンペーンのためなのであろうか。
ピッカリン国王の頭は眩しいほどに光を反射している。
フッサール大臣はその光を見て眩暈で倒れそうになるのを何とか踏みとどまった。
「か、会議を、招集します……」
「おお、頼んだぞ」
(ダメだこの国王! 早く何とかしないと!)
フッサール大臣は、王に対抗するために早急に会議を招集することにした。
それが更に波乱を招く元となると、この時彼は思いもしなかった。