RenFa
□一日の始まり
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「さーて、仕事仕事」
ヘアバンドをした今時風の若者がとあるビルに足を踏み入れる。エレベーターはなく、
古びた階段を登り二階にたどり着く。そこに掲げてある看板の文字は【RenFa事務所】。
若者は慣れた様子でドアを押し開いた。
中は意外と広い作りのようだ。そこには既に三人の先客がいた。
「ちーっす、美奈子さん」
彼が声をかけると、穏やかな雰囲気の女性――30代くらいだろうか――が顔を上げた。どうやら彼女が美奈子というようだ。
「あら、彰二君。依頼来てるわよ。恋人役」
「マジっすか?」
「ええ」
美奈子に言われ、積まれた書類をチェックしはじめる彰二。
その肩に活発な印象を与える少女が顎を乗せ、書類をのぞきこんだ。
「ふーん、彰二くんが恋人役?そのお客さん、物好きだねぇ」
「うるせえぞ、智恵理」
彰二が少女――智恵理の頭を小さく小突いた
「ぼーりょく反対ー!」
きゃらきゃらと笑いながら智恵理は彰二から離れ、キッチンへと消える。
彼女はすぐに戻ってきて彰二にお茶を出した。
「ん、サンキュー」
「どーいたしまして」
ふんぞり返る智恵理の頭を彰二はぐしゃぐしゃと撫でた。
「あー! 髪ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃん! 彰二くんのバカ!」
「ははっ、細かいこと気にすんなって」
まったくもう、と怒りながらも智恵理の目は楽しげに笑っていた。そんな彼らを見守る老人が一人。
「ほっほ、今日も彰と智恵は仲が良いのう」
「「よくない!」」
見事に揃った声。
「ふふふ、源蔵さんの言う通りね」
美奈子が耐えかねたように笑う。
「さて、仲が良いのは大変良いことじゃ。今日も仕事を頑張るかのう」
源蔵が声を掛ける。
「りょーかい、源爺」
「うん、源さん。気合い入れまーす!」
彰二と智恵理が返事をし、美奈子も微笑んで頷く。
一見ちぐはぐな組み合わせのRenFa――レンタル家族――の彼らの一日は、今日も笑顔で始まる。