短編以上長編未満

□光ある国
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「では、多数決で『少数者人権保護及び優遇法』は正当な法ということで」


会議室に沸き起こる拍手は決して小さなものではない。


「な、なんということだ……!」


フッサール大臣は思ってもみなかった展開に項垂れた。

彼の最大の誤算は、ルクス王国の現状を見落としていたことだった。
現在平穏な国家であるルクス王国は、現状を守ろうとする世論が多数を占めていた。
そんなルクス王国の会議のメンバーはほとんどが世襲で、良く言えば保守的、悪く言えば頭が固い者たちの集まり。
つまり、年を取ったものが多い――すなわち、髪の悩みを持つ者が多かった。
そのような場で髪の悩みを持つ者を保護する法律が出れば、賛成が多数となることも頷ける。
何といっても、自分たちの利となる法律なのだから。


「ああ、ピッカリン様はとても思いやりのあるお方ですなぁ……」

「これで世の髪の悩みを抱える者達も大手を振って暮らせるわい」

(この議会ももうダメだ……)


固まってしまった結論に、反論者は意見したくてもできなかった。

この会議で決められたことは多少の意見くらいでは覆らない。
会議のメンバーには様々な階級の者が属しており、より広い意見が取り入れられるようにされている。
そうして多くの者達から賛成を得ることにより、今までの法律はすんなりと国民に受け入れられてきた。
常日頃なら良いシステムと言われる物なのだろうが、今回はおかしな法律を強く肯定するのに一役買ってしまった。


「ああ、どうすれば……」


どんなに嘆いても、もはや後戻りできない。これは国内が荒れる。
フッサール大臣はそう思っていた。



 *  *  *



「……意外と落ち着いたものですな」


あれから数日。国内は危惧したような混乱もなく、いつもとほとんど変わらない。
変わったのは堂々と歩く薄毛やハゲの人の数が増えたことくらいだろうか。
店ではハゲ割引なるものが登場し、新たな商売が行われている。美容院でもスキンヘッドの注文が増えているらしい。

ピッカリン国王の側近達の中にも薄毛やハゲをカミングアウトする者が増えている。
思いのほかルクス王国には、潜在的に薄毛の人が多かったようだ。
知られざる事実にフッサール大臣は素直に驚いた。

しかし、事態はそれで終わらなかった。
意外な展開に胸をなでおろした時、もう一つの法案がフッサール大臣に知らされる。
それは議会のメンバーから出された法案だった。


「『少数者優遇強化法』?」

「その通り。今まで髪の悩みを持つ者は差別されてたと言っても過言ではない。だから、特別措置を取るのであーる」


その内容はピッカリン国王が出した法律をさらに強化したもので、髪の悩みを持つ者に例外なく特権を与え、その権利を国が保証するというもの。
権利を認めないことを少数者差別だとし、厳罰に処すことも盛り込まれていた。
頭を光らせて法案を主張するツルン議員にフッサール大臣は反論した。


「法律を強化せずとも、今のままで十分落ち着いているのでは?」

「だまらっしゃい! 現状で満足してはならぬ! ピッカリン国王様の素晴らしい法律をさらに浸透させるのだ!」


激しい口調でがなりたてるツルン議員。しかしフッサール大臣は負けずに食い下がった。


「ですがこれ以上エスカレートさせずとも」

「さては大臣、自分には髪があるからといって、髪の悩みを持つ者を差別しているのではなかろうな!」


とんでもない言いがかりだ。
ツルン議員の発言を肯定することはピッカリン国王をもバカにしていると宣言するようなものであるため、フッサール大臣は慌てて否定した。


「そ、それは違います! 私はただ……」

「では多数決を取るのであーる」


有無を言わさず行われた多数決の結果は、賛成多数。
こうして新たな法律が通されてしまった。


(これではもはや横暴だ! どうしろってんだ畜生!)


フッサール大臣は、口汚い罵倒を心の奥に抑え込む。そして、最近携帯し始めた胃薬の瓶を強く握りしめた。
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