お礼小説
□Happy Christmas!
「…別にいいけど…何に付き合えばいいんだ?」
予定もないし軽い気持ちでOKした私は当日のことを尋ねた。
「遊園地のクリスマス限定チケットを貰ったからさ。折角だしどうかなって」
にっこり笑った碓氷はチケットを取り出して見せてきた。そのチケットには“X'mas限定 ペアご招待券”と記されていた。
「ペアチケットだから1人で行くわけにはいかないでしょ? 無駄にするのも勿体ないしね」
私が貰ったわけではないが、確かに無駄にするのは気が引ける。
「何でもクリスマスの2日間だけ特別イベントとかあるみたいだよ」
「ふーん」
本当イベント事に興味ないんだねぇとやや呆れたように言った碓氷に、悪かったなと応えながらチケットを突っ返す。
それでも碓氷は嬉しそうに笑っていた。
25日の朝。待ち合わせ場所の駅前に時間より早く着いたため、道行く人達をぼんやりと眺めて待っていた。
普段気にすることは殆どないが、やけにカップルが目につく。
その原因が、今がクリスマスという時期だからなのか、または自分がそういう相手と待ち合わせているからなのかと思った途端、待っているだけだというのにやけに恥ずかしくなってきた。
そわそわと落ち着かなくなってきたとき碓氷がやって来て私の様子を見てからかう。
しかしすぐに、今回も妹に捕まってウェーブの付けられた髪をポニーテールにされて、オフホワイトのニットワンピースを着せられていた私の姿を見ると、初めて待ち合わせをしたあのときと同じく照れたように顔を綻ばせた。
そんな碓氷の表情にますます私の恥ずかしさは増していったが、不思議と嫌な気はしなかった。
電車を乗り継ぎ、到着した遊園地は案の定カップルで一杯だった。
アトラクションに乗るのも待ち時間が長くて辟易したが、それでも全種類制覇する勢いで回っていく。
そうして陽も暮れ始めたころ「最後の締めはあれだよね」と言う碓氷に引っ張られ、観覧車の列に並んだ。
順番を待っている間に段々と夕闇が濃くなっていき、園内の至る所でイルミネーションが光り始める。
「上から見るのも綺麗だと思うよ」
順番が来て乗り込む際に言った碓氷の言葉どおり、園内に広がる光は確かに綺麗だった。
ゆっくりと上昇していくゴンドラの中で言葉を交わすことなく、眼下に見えるイルミネーションに見惚れていた。
やがて頂上に近づいたとき碓氷が静かに口を開く。
「ここの観覧車にまつわるジンクス、試していい?」
え? と碓氷の方に向き直り答える前に、目前に来ていた碓氷に口付けられていた。
「頂上でキスすると一生結ばれるんだって」
にやっと笑いながら隣に移動した碓氷は腕の中に私を納める。
「こ、答える前にするなよっ!」
「嫌だった?」
「っそ、そうじゃなくて…っ」
赤くなっているに違いない顔を俯くように碓氷の胸に押しつけて隠して、やっとの思いで言った言葉もあっさりと返された。
「…ねぇ。来年も再来年もその先もずっと…クリスマスだけじゃなくて毎日傍にいてくれる…?」
耳許で優しく囁かれた台詞に胸の奥がじんわりと熱くなる。
「…考えて…やらないでも…ない」
我ながら可愛くない返事だと思う。そんな私の答えに「そこはハイって言うところじゃないの〜?」と、笑いながら言う碓氷につられて私も笑った。
ぎゅっと碓氷を抱き締め返し、ゴンドラが地上に着くまで抱き合ったまま2人してくすくすと笑いあっていた。
こうやって笑いあえる日がずっと続いていくといいと願いながら。
end.(2009.12.02)
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