Under

□2人だけの
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きっかけはささいなこと。
以前、鮎沢の母親がアイツに弁当を作っていた。それは別にいい。その弁当を鮎沢が渡していることも――事情を知っていたから、まぁ、目を瞑っていた。
それを今更話題にだし、あたかも2人の秘密とでも言わんばかりの態度をとるあの男に、本気で叩き潰してやろうかと思った。

「ホント…目障りだよね三下君は」

「…お前、何か物騒なこと考えてるだろ…」

怖いぞ? 怪訝そうに訊いてくる彼女。
今日は土曜日で珍しく鮎沢のバイトが休みの日。少しでも一緒に居たくて、学校帰り無理矢理手を掴んで自宅マンションに連れてきたのに。折角の2人だけの時間をこんな気持ちで過ごすのは不本意だ。ヤキモチというのとはちょっと違う、言うなら怒り? の感情を向けるべき相手は当然アイツで。鮎沢にあたるのは筋違いだと解っているけれど、この暗い気持ちの背中にぴったりくっついて見え隠れする独占欲は紛れもなく彼女に向けたもので抑えようがない。

「何でそんなに不機嫌なんだよ…」

「忘れた? 俺独占欲強いって言ったよね? 俺の目の前でミサちゃんが楽しそーに三下君と内緒話してて、妬かないとでも思った?」

俺の言葉に頬を赤くさせながらもムッとした様子で言い返す。

「あれがお前には楽しそうに見えたのか? …弁当のことはお前も知っていただろう。他の奴もいる前であんな話されたら色々ややこしいだろうが…」

どういう流れか食事の話題になったとき、いきなりあの男は“またお弁当を作ってもらいたい”などと言いだした。母親のことなど何も言わず、鮎沢本人がかつて作ったかのような口振りに、彼女は慌てて奴の口を押さえ小声で怒鳴って二言、三言、言葉を交わしていた。
まあね。あの時は俺の他にも何人か男子達がいたから、バレたら何かしら噂のネタにはなるよね。それがアイツの狙いだったんだろうから鮎沢の行動は正しい。けどね。

「知ってても嫌なものは嫌だよ。相手はあの三下君なんだから」

「〜〜〜〜っ」

はぁ、と大きな溜め息をついて片手で顔を覆い、諦めたように指の間から伺うように視線を向けてくる。

「……どうしたら機嫌を直すんだ?」

そんなのはもちろん。
鮎沢は俺のなんだって、肯定して?

「じゃあ鮎沢から…キスして」

怒るかと思ったが何も言わずに睨むような眼差しで、一歩俺に近づく。
片手でネクタイを引っ張られ、少し遅れてもう片方の手が後頭部を押さえてきてキスされた。触れるだけのそれでも俺をかきたてるのには充分。それなのにさらに。離れる間際に彼女の舌が掠めるように触れて、僅かに残っていた理性が消えた。

「これで文句ないだろっ!!」

真っ赤になりながらも真っ直ぐ目を見て怒鳴られる。まだ俺のネクタイを掴んだままの手が小刻みに震えているのが見えた。

「うん。でも…足りない」

気付いてる? 自分の言動がどれだけ俺を我慢させているのか。その我慢も自分で台無しにしてるんだよ?
乱暴ともとれる仕草で鮎沢の顎を掴んだ。驚いた彼女が逃れようと抵抗するのを、抑え込むように力を加えて顔を背けられないようにする。鮎沢が上目遣いで睨みつけてきたけど逆効果。そんな赤い顔してたら誘っているようにしか見えないって。
顎を掴んだままで親指を動かして指の腹で唇をなぞる。さっきの力が嘘のように優しくゆっくりと何度も左右に行き来し、引き結んでいた口を僅かに緩ませて中に差し入れる。同じように歯列をなぞると仕返しのつもりか、軽く噛まれた。
そんなことするとお仕置きするよ? 口許だけで笑い強引に口付けた。
顎を掴んでいた手は首筋に沿って下がり、リボンの留め具と次にシャツのボタンを外していく。

「…っちょっ…やめ…っ」

「無理。止まんないから……諦めて」

そんな顔して誘ったのはそっちだし。
にやりと意地悪く口許を歪めれば、案の定反論しようとするけれど口付けて阻止する。舌を侵入させ、とまどう彼女のそれを捉え絡めて深くなる一方のキス。のめり込んだ俺は鮎沢に覆い被さるような体勢になり、自然彼女の身体は仰け反っていった。息苦しさと体勢の辛さとで、溺れた者が助けを求めるように縋るように俺の首に腕を回してしがみつく。それでも。
きっと溺れて縋っているのは俺のほう――

一度口を離し、足りない酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す鮎沢を抱えあげてソファーに組み敷いた。肌蹴たシャツから覗く鎖骨に沿って唇を這わせれば反応する彼女。
邪魔な布をすべて取り払い、現われた身体に見蕩れる。この白い肌が羞恥だけではない熱に色付くさまを思い出し、堪らず柔らかな肌に喰らいついた。
胸の頂を口に含みねぶれば、襲い来る快感に堪えるように噛み締めた口から堪え切れない声が漏れる。一度発せられた声はとめどなく溢れ、硬くなった先端を甘噛みすれば一層高い声を上げる。
もっと聴きたい。
もっと乱れて。
もっと俺を求めて。

秘部に指を伸ばせばすでに潤いをもち始めていて、難なく指を迎え入れる。本数を増やし内壁を引っ掻くように動かせばヒクリと奥へと誘うように蠢き、逆らうように指を引き抜いてまた奥へと入れる。
充分にほぐれた頃には鮎沢の目許には物欲しげな色が浮かび、切なげなそれでいて悦びの混じった嬌声をあげ続け、自分の声を塞ぐようにキスをねだる。
そんな彼女の姿にどうしようもなく煽られ己自身を深く突き刺す。首に抱きつき突き上げる動きに合わせて喘ぐ声の間隔が狭まってきて最後が近いことを知る。耳元で聴こえる自分の名を呼ぶ声に応えるように動きを速めて先に彼女を高みに至らせ自分も後を追った。


浅い息を繰り返して力なく横たわる美咲の肌に残る赤い痕。自分がつけた少なくないその赤は彼女の白い肌に映えて、一度は治まった欲情を再び煽る。
美咲の乱れた髪を梳くように払い、額から頬へとそっと撫でると目尻に涙を残した瞳を開いて見上げてきた。

「…解ってるの? そんな誘う顔したら俺、また止められなくなるけど?」

涙を拭うように口付けながら言えば

「っ!! アホ!」

真っ赤になりながら俺の頭を叩く。甘んじて受けたがその拳にはあまり力は入っていなかった。抱き締めれば躊躇いがちに鮎沢も抱き返してくる。肩口に顔を埋めると、彼女の手が頭を撫でてくれた。
彼女は気付いているだろうか。
君が見せる仕草、声…そのすべてに、俺が救われているということを。“自分”が受け入れられていると実感できることの幸福。

お互いの心臓の位置に残る赤い所有の証。
2人だけの秘密に含まれる甘美な味わいに今はただ浸っていたい。
この心地よい彼女の香りに包まれたままで。


end.(2009.07.25)

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