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□恋しい温度
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ふ…と気付くときがある。

仕事をしているとき。
家路を辿っているとき。
授業中に集中力が切れたときなんかにも。

なんだか淋しいような…心細いような…
冬という今の季節の寒さが身に染みるというような…

独りでいることを殊更に強く実感する感覚。

知らず、自分で自分を抱き締める。
自分はこんなにも弱かっただろうか?

否。

弱くなったのだろうか?

自問する私の視界に入り込んできた見慣れた後ろ姿。
反射的に奔りだしていて。
相手の腕を掴んでいた。

驚いた表情で振り返った相手を見てから、自分の行動に気が付いた。

いつもそうだ。
思考や言葉よりも先に行動してしまう。
慌てて謝りながら手を離して弁明を考えた…が、なにも思い付かない。
どう言えばいいのかも判らなくて、済まない…ともう一度謝ってから相手から離れようとした。

すると逆に肩を掴まれた。

思わず仰ぎ見ると心配気な瞳とぶつかり、どうかした? なんて優しく問われる。
でもやっぱり私はなにも応えられなくて。
ただ困惑したまま相手の顔を見つめていた。

やがて肩にあった手が離れてそれが背中に回されたことに気付いたのは、抱き締められて相手のネクタイの結び目が視界に入ったあとだった。

自分と相手の心音が聞こえ、体温を感じてやっと理解した。

この温もりが欲しかったのだと。
碓氷の温度を感じられる、この居場所を求めていたのだと。

碓氷の背中に腕を回して抱き返すと、応えるように力が籠められた。
ぎゅっと苦しいくらいに抱き締められていることに安堵する。
もう、知らなかった頃には戻れない。

もう…
この温かさを手放すことはできそうにない。

胸元に顔を埋め私も力を籠めて抱き付いた。
欲しいものを欲しいと素直に言えない代わりに…自分から取りにいくと伝えるように。


end.(2010.02.15)

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