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□色づく
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美咲はソファに座り、両手を己の両側に付いて強くソファの生地を掴んでいた。
恥ずかしくて俯いてしまえば、自ずと視界に入ってくる光景。
目を閉じてしまいたいが、そうすれば視覚をなくす分だけ触覚を強めてしまうだけだと判っていたので我慢していた。

なにがそんなに恥ずかしいのか。

それは美咲の足下に座っている碓氷に原因があった。
胡坐で座る自分の膝に美咲の片足を乗せ、恭しくかしずくように手に取って丁寧にペディキュアを施している。
碓氷は集中しているのか、無言で美咲の爪先に視線を向けたままだった。



放課後、さくらが自分の指先を不満そうに見ながら歩いていた。
訊くと先日買ったマニキュアの色味が思っていたのと違っていたらしい。
綺麗な色だけど好みじゃなくて…と苦笑いしながら言ったさくらは、おもむろに鞄に手を突っ込むと、よかったら美咲にあげる、と美咲の手のなかに小びんを握らせてきた。
え? と驚いている美咲に構わず、じゃあね〜と帰っていくさくらの後ろ姿を、美咲は呆然と見送った。
溜め息をついて、どうしようかと手のなかのマニキュアを見ながら考えていると、背後から声を掛けられた。

「塗ってみたい、それ」

振り返ると愉し気な笑顔の碓氷がいた。
思わず指先がピンク色になっている碓氷を想像して、気色悪いと眉間に皺を寄せた美咲に罪はない…多分。

「…お前が塗るのか?」

「うん。俺がミサちゃんに♪」



嫌だと言い張った美咲だったが、結局碓氷に押し切られて、手、ではなく足の爪を塗られることになってしまった。
ドライヤーを使って早く乾かした碓氷は、終わったよと言いながら下から覗き込むようにして美咲の顔を見た。

「ぉぅ…」

美咲は目が合うとさらに顔を赤くしてそっぽを向く。
そんな美咲を見た碓氷はクスリと笑い、爪先から頭まで視線を巡らせた。
すらりとした白い肌の脚先には、先程塗り終わった濃い桜色に色付いた爪。
自分の言動に一々反応して赤くなる、美咲自身を現わすかのようなその色に、碓氷の笑みはなお深くなった。
碓氷は膝上に乗せたままだった美咲の左足をそっと掴むと、踝からふくらはぎへと右の掌で撫でていく。
ビクッと反応した美咲は碓氷から足を退けようとしたが、左手で掴まれていたせいでできなかった。
僅かに足を持ち上げて爪先に口付けた碓氷がちらりと美咲に視線を送る。
その視線に含まれたものに気付いた美咲は、一気に恥ずかしさが頂点に登る。

結果、自由になっている右足で思いっきり碓氷を蹴り飛ばしたのだった。


end.(2009.11.15)

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