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□消毒?
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大量の書類を抱えて生徒会室に戻ると、室内には生徒会役員達の姿はなく代わりに役員でない者が1人居た。

「…またお前か…」

いい加減注意するのにも飽きてくるほど毎日のようにやってくる男は、当然のごとく机に座っていた。

「机に座るな」

不機嫌さを隠しもせずに言うと珍しく素直に机から離れ、そのまま近づいてくると私が持っていた書類を半分以上取り上げていった。

「あ…悪い」

「これからこの量、仕事するの? …多くない?」

私の机に置きながら溜め息混じりに問い掛けてくる言葉に返答するべく、扉を閉じるために後ろを向いていた身体の向きを変えた時だった。
開け放たれていた窓から入り込んだ風に煽られ、持っていた書類が舞った。

「うわっ……痛っ」

何枚かが顔面に当たり床に落ちる。先に碓氷が机に置いた方も数枚が落ちて散らばっていた。拾おうとして手を伸ばすと向かい側からも伸びてきたので手分けして集める。

「明日の会議の資料だよ。準備に分類するだけだから時間は掛からん…と思う」

拾いながら先程の問いに答え、抱えていた残りの書類と共に机に置いた。碓氷も拾った分を持ってきて同じように置く。一応礼を言おうと顔を向けると目の前に相手の顔があって思わず動きが止まってしまった。

「!? ち、近いっ!! なんだよっ」

「鮎沢。ちょっとじっとして」

思いがけない真剣な表情と声音に大人しくしていると、碓氷の片手が頬を包み顔を傾けさせる。右頬を覗き込まれた次の瞬間、頬にピリッとした痛みが走った。
最初は何をされたのか理解できずにいたが、次第に頬を舐められたことに気付く。

「お、お前っ何してっ!!」

「ん? 何って…消毒。さっき紙で切ったみたいだったから」

頬を隠すように押さえて、ムカつくほどにっこりとした笑顔の碓氷から距離を取る。

「舐める奴があるかっ! この変態!!」

怒鳴るもまったく堪えない変態宇宙人は、なおも笑顔のまま一歩近付き離した距離を縮める。反して後退ったがすぐに壁に背がついてしまい、さらに碓氷が顔の両側に両手をついたため逃げ道が断たれた。

「ごめんね? 窓開けたの俺なんだけど…怪我させるなんて思わなかった…」

哀しそうな表情で言われて何故か慌ててしまう。怪我といっても自分では気付かなかったくらいのかすり傷なんだし、謝ってもらうほどじゃない。
そう言おうとしたのだが、口を開く前に未だに頬を押さえていた手を除けられ、先程とは打って変わって悪戯を思い付いたような笑みを浮かべた碓氷の顔が近づいてきた。

「でも安心して。キズモノにしちゃった責任はちゃぁ〜んと取るからねv」

ちゅっ、と怪我した場所に口付けられる。

「〜〜〜っふ、ふざけんなーっ!!」

碓氷めがけて鉄拳が飛んだのは言うまでもない。


end.(2009.09.19)

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