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□不香の花 -Fukyounohana-
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いつものように彼女と共にバイト先に向かう放課後。
一瞬白くなった呼気が背後へ流れていく。
まだ陽は落ちてはいないが昼間より確実に冷え込んでいて、繋いだ手から伝わる温度が心地いい。
一陣の風が街路樹の枝を打ち鳴らして通り過ぎた。
隣を歩く彼女がふいに立ち止まり空を仰ぎ見る。倣って視線を上げると白いものが落ちてくるのが見えた。
風に乗ってふわりふわり舞い落ちてくるそれはまるで。

「枝の間から落ちてくるから、花が散ってるように見えるな。桜吹雪みたいだ」

ここ桜並木だし。笑って言う君が同じことを思っていたのが嬉しくて、俺も笑いながら同意した。

触れれば溶け消える白い香らずの花。
儚いそれは微笑む彼女を鮮やかに彩り、にわかに匂いたった。


end.(2009.08.19)

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