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□七夕の雨
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「お先に失礼します」
挨拶をして裏口のドアを開けると、当たり前のように碓氷が待っていた。
「お疲れさまv」
「…帰ったんじゃなかったのか…」
溜め息混じりに言ってみても、目の前の変態宇宙人は気にする素振りもない。
「そんなわけないじゃん。雨降ってきたし、時間も遅いのに」
「……別に送らなくていいって言ってるだろ……」
「俺が送りたいから、ダーメ」
それに傘ないでしょ、と言われては美咲には返す言葉がない。
「――…勝手にしろ」
コイツには何を言っても無駄だろうと諦めて、渋々、碓氷がさす傘の中に入る。
ゆっくり歩きだすと、碓氷が天を見上げながら話しかけてきた。
「折角の七夕なのに、雨で残念だね」
「お前がそんなこと言うなんて珍しいな。七夕の日の雨って確か…催涙雨、だったっけ」
織姫と彦星の涙…
逢えない切なさで流される涙雨。
ぼんやり考えていると、いきなり碓氷が顔を覗き込んできた。
「天上の二人には悪いけど、俺たちは地上で良かったね?」
言葉の意味が分からなく、どういう意味だ? と聞き返すと、にやりと笑って
「雨が降ってもこうして逢えるからv」
言うのと同時に口付けられた。
「それに…逢えなくて泣かせたりなんかしないからね」
「…っ…言ってろっアホ…っ」
赤く染まった顔は傘に隠れて目の前の相手以外に見られることはなかった。
end.(2009.07.06)