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□ヌクモリ。
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キィ…とドアが開いたときに立てる微かな音を聞くとはなしに聞いていて、誰かが屋上に来たと知った。

今の時期に屋上にやってくる物好き(…まぁ自分もだが…)はどんな奴だろうと、ちょっとした好奇心に駆られて閉じていた瞳を開けた瞬間に話し掛けられた。

「…お前…本当に阿呆なんだな…」

この寒いのに屋上で昼寝って…と、心底呆れた声で言ったのは鮎沢だった。

身体を起こして振り返って見た彼女は、冷たい風に晒されているせいで身を縮こませて、両腕で自分の身体を抱き抱えている。

「あれ? 今日はミサちゃんがお迎え?」

「アホっ見回りの途中だ!」

立ち上がって近付きながら問いかけたら怒鳴られた。そんな即答しなくても…

「鍵閉めるからさっさと降りろ」

近づいた分を離れるように後退った鮎沢は、そのままクルリと踵を反して先に降りてしまった。後を追って降りると彼女は既にドアの向こう側、校舎の中にいて俺を待っている。

「フェンスが一部外れかかっているんだ。明日には修理が入るし、今の時期に屋上にくるのはお前くらいだろうが…念の為にな」

鮎沢は俺が隣に並んだのを見届けてからゆっくりドアを閉じて鍵を掛けた。

「修理が終わるまでは、勝手に鍵開けて入るなよ?」

そう言って俺の方に向き直った彼女に腕を伸ばして抱き寄せる。

「温か〜いv」

「っ!! 私で暖をとるなっ!」

案の定、じたばたと暴れだした鮎沢を逃がさないように、腕に力を入れてさらにぎゅっと抱き締めた。

「…ちょっとくらい温めてくれても…」

「お前を温める前に私が冷える! お前冷えすぎだっ」

鮎沢が弱い、ちょっと切な気な表情をして言ってみたけどダメだった。

確かに寒くはあったけどそんなに冷えてるかな〜と内心首を捻り、思わず力を緩めてしまったのを見計らって鮎沢が、腕を伸ばすようにして俺から身体を離してしまう。

まだ腕の中にいるけど、距離ができたぶん途端に寒くなった。物理的にも…心理的にも。

「私はまだ見回らなきゃならないんだから、さっさと離して…お前はもう帰れよ…」

眉間を顰めて上目遣いで見上げてくる鮎沢の表情が、怒っているというよりは心配しているように見えるのは自惚れじゃないよね?

その証拠に、鮎沢はポケットから取り出したものを「これやるから」と言って押し付けてきた。まだ充分に温かいそのカイロは、恐らく見回りのときに寒いからと用意したものだろう。

「…ありがとう…でも、いいの? 鮎沢は寒くない?」

「平気だ。見回りの残りも少しだし」

受け取ったカイロを見て俺はにっこりと笑ってみた。

「じゃあお礼に…帰るときには冷えちゃっているだろうミサちゃんを、俺が温めてあげるからねv」

「〜っいらん!」

勢いよく俺の腕を振り解いて、真っ赤になった鮎沢が階段を駈け降りていく。

その背中に向かって「生徒会室で待ってるから早くねv」と声を掛けると「結構だっ!! 待たなくていいから帰れーっ!!」と怒鳴り声が返ってきた。

その声を聞いて顔が弛む。判ってないなぁ…結構って断りの言葉、了承の意味もあるんだよ? 自分の言葉には責任もたなきゃね?

彼女から貰った温もりをまた彼女に…もちろん+αをつけて返すべく生徒会室に向かう。

さっきまで感じていた寒さは…もうどこにもない。


end.(2010.01.01)

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