Thanks

□Blue Rose
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「仕事をし始めたらさ、きっと今まで以上に逢えなくなると思うんだよね。ミサちゃんのことだから仕事にのめり込みそうだし?」

ニヤっと笑う碓氷にムカつくが、少なからず自覚のある美咲は睨みつけるだけに留める。

「大学が違ったら逢える回数減ったでしょ? これ以上減るの、厭なんだよね」

「減ったって…でもしょっちゅう会っていただろ?」

毎日のように会えていた高校のときとは違って、確かに顔を見られない日は増えた。
それでも三日と空けずに会っていたのだから減ったと言われてもあまりピンとこない…と美咲は思ってしまう。

「だって俺は毎日逢いたいし一緒にいたいんだもん。だから一緒に暮らしたい。で、仕事に慣れて、生活のリズムも決まって落ち着いたら…結婚したい」

美咲は徐々に頬を染めながら、じっと碓氷を見つめる。

「…厭…?」

不安気な碓氷の再度の問いかけにも美咲は答えることなく、黙って足元に置いてあった鞄へと手を伸ばした。
美咲のその行動に、帰ってしまうのかと思った碓氷は慌てたように美咲の肩を掴む。
だが美咲は立ち上がるのではなく、鞄の横の紙袋を手に取るとポツリと呟いた。

「今朝…夢を見たんだ」

「え?」

「高校の卒業の時。帰り道でお前言っただろう? 生花で、不可能といわれていた青いバラができたんだって。で『いつになってもいいから鮎沢から青いバラを貰いたい』って」

紙袋を手にしたまま真っ直ぐ前を見て静かに話し始めた美咲の横顔を見ながら、碓氷は黙って聞いていた。

「花言葉とか関係しているのかとも思ったが…あの時も今も、お前がどういった思惑で言ったのかは正直判らん。だが…」

美咲は、相変わらず殺風景な部屋のなかで、鮮やかな色彩を放つ一角を見やる。
そこにはあの時貰ったアレンジメントが置かれていた。
訳が判らないながらも、いつか渡すという約束として美咲が預けていたものだ。

「私が今これを渡すことは、お前の望みに叶うものだろうか…?」

美咲は紙袋のなかから、今朝購入した1本の青いバラを取り出し碓氷に差し出した。
目の前に出されたバラと美咲を交互に見比べた碓氷は、やがて泣きそうな、しかし心底嬉しそうな顔で笑うと美咲を抱き締めた。

「…うん。ありがとう…」

「…なんで青いバラが欲しかったんだ?」

紅潮した顔を碓氷の肩に押し付けた美咲が疑問を口にする。

「――美咲みたいだなって思ったんだ」

「?」

「不可能っていわれているのに、諦めずに努力し続けて作り出したんだって思ったら、なんか美咲みたいだなって。そしたら手に入れたくなった」

碓氷は腕に力を籠めて一度強く抱き締めると美咲の顔を覗き込むように少し身体を離す。

「それが美咲本人からだったら、美咲の意志で俺のトコロに来てくれたって感じがするなって思った」

「っ…」

「だから、すっごい嬉しい…っ」

碓氷は再び美咲を抱き締めると、頬にちゅっとキスを落とす。

「…これ、さっきの返事だと理解していいんだよね? OKってことで」

美咲は暫しの間を空けてから、ただ小さく頷いた。

「でも母さんに反対されたらしないからな」

なぜか昔から碓氷を妙に信頼している母親のことだから、多分反対はしないと予想できるが、恥ずかしさを誤魔化すためにボソリと付け足した。

「うん。じゃあ明日にでも、ちゃんと許してもらえるように挨拶に行くよ」

許してもらったら色々準備しなきゃね、と上機嫌で続ける碓氷は自分の腕のなかの美咲を抱き締め直す。
美咲も抱き締め返すと、どちらからも顔が近づき口付けを交わした。



不可能といわれたBlue Rose――
だが諦めず手を伸ばし続けて…手に入れることができる今。
託された言葉は『夢 かなう』


姿重ねた相手を腕に抱き、碓氷は初めて望んだ願いが叶う悦びを噛み締めた。


end.(2010.04.12)
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